ブランド見聞録:ブランドはマーケットを勝ち抜く経営ツールです:第4回 社員をブランド化する
2011年6月20日 10:21
ブランド構築というと、未だに各種のメディア広告やPR活動が必須で、相当な費用が掛かると思い込んでいる経営者の方が多いようですが、それは違います。実は、日頃から取引先やお客様と接触している社員やスタッフが、ブランドを訴求するための最高のメディアになるのです。
■社員の立ち振る舞いがブランド価値を左右する
以前のコラムにも書きましたが、例えば居酒屋でビールのお代わりをする際、無愛想な店員ではなく、つい愛想の良い店員に頼みたくなりますよね。そして、店員の対応の仕方一つで、同じビールでもおいしく感じたり、何だか良い店に思えたり、料金もリーズナブルな気がしてくる。この心理はあらゆるビジネスに共通しています。つまり、良くも悪くも社員やスタッフの立ち振る舞いが、製品のクオリティや企業の信頼感、ブランド価値にまで影響を与えてしまうのです。言い換えれば“社員の立ち振る舞い=企業のブランド像”だといえます。
■あなたの会社の一番の強みは?
「よし、それじゃ当社も社員を教育してブランド化するぞ!」と考えた経営者やマネジメントクラスの方、ちょっとお待ちください。物事はそう簡単にいかないのです。私はコンサルティング先で、部署が違う社員の方々に「あなたの会社の一番の強みは?」という質問をよくします。多くの場合、その答えはバラバラです。社員の認識がバラバラなのですから、当然彼らが接している取引先やお客様も、その会社の“強み”や“売り”に対しての認識が バラバラということになります。このような状況では、会社が目指す姿が社内で浸透しているはずもなく、社員のブランド化は絶対に進みません。
■社員はブランドにとって諸刃の刃
社員のブランド化を図るなら、何よりも“企業として目指す姿=ブランド像”を明確にし、それを社内に浸透させなければなりません。そこで、企業の目指す姿を浸透させようと、ある日突然トップダウンでこれからの方針を伝え、それに伴う研修や教育を行っても、おそらく反発を買うだけです。その結果、社員のモチベーションと一緒に、ブランド価値も、売上もダウンしてしまう恐れさえあります。社員の立ち振る舞いは、ブランドにとって諸刃の刃でもあるのです。
■名旅館と名ホテルに学ぶ
石川県の和倉温泉にある「加賀屋」はご存知ですか?31年連続で「プロが選ぶ日本の旅館・ホテル100選」で総合日本一を獲得した名旅館です。具体的には、もてなし部門、料理部門、施設部門、企画部門で採点されるのですが、そこで働く社員およびスタッフ全員が“「加賀屋」=どういう旅館であるべきか(目指す姿)”を理解して、心地よく働いているからこそ、成せる偉業ではないでしょうか。また、本屋のビジネスコーナーに関連書籍が並ぶ「ザ・リッツカールトンホテル&リゾート」のクレド(信条)も、社員の心得であり、明確なブランド戦略を示しているのです。
■学ぶべきはカタチではなく精神
少し昔の話になりますが、私も関わったトヨタ「レクサス」の日本導入の際に、ディーラーの販売員を「ザ・リッツカールトンホテル&リゾート」で研修させることが話題になりました。個人的には、接客の仕方を学んでも意味がなく、その根底にある精神が重要なのであって、メディア向けのパフォーマンスとしては良いが、実際にどれだけ効果があるのか疑問を持ったのを覚えています。
■明確なブランド戦略が、社員のブランド化の第一歩
先ずは、自社の置かれた状況を的確に把握した上で、その会社ならではの目指す姿を明確に示す、ブランド戦略を策定することが、社員のブランド化への第一歩です。そして、戦略をブランドブックやクレドなどにブレイクダウンし、社内への浸透を図りましょう。可能であれば、ブランド戦略を策定するにあたり、部署の枠を超えた社員の方々を交えてブランドチームを発足させることをお勧めします。そうすることで社員の方々に当事者意識が芽生え、彼らのモチベーションも上がり、ブランド戦略の社内への浸透をよりスムーズに行えるからです。
次回のコラムのテーマは、「技術をブランド化する」です。プロダクトではなく技術やノウハウをブランド化することの重要性に関して語る予定です。