BtoB企業の広告・広報手法(1) BtoB企業広告は必要か?
2011年1月20日 12:00
年末年始の期間、テレビや新聞などを見ていると、いつもとは違ったCMや広告を目にすることが多い。普段からよく見かける商品やスポンサーのお正月バージョンのCMもさることながら、ことさら目をひくのは「何を売っているのかよく分からない」企業広告だ。
「何を売っているのかよく分からない」と言ってしまっては語弊があるかも知れないが、それもそのはず、これらの広告を展開している企業の多くは普段、一般消費者向けの商品を扱っているのではなく、対企業間取引を主としている、いわゆる「BtoB」企業。エンドユーザーが実際に手にする商品ではなく、その商品を作るための材料や原料、またはそれに必要なサービスなどを企業に向けて提供するのが主な業務なので、一般消費者が「何を売っているのかよく分からない」と思うのも当然のこと。
ならば何故、そんなBtoB企業が予算をかけて、一般消費者に向けたテレビCMや広告を展開しているのだろう。「この商品を買ってください」「新製品が出ました」などの一般消費者へのメッセージがハッキリとした、いわゆる「BtoC」企業の商品広告ではない、BtoBの企業広告の目的は何か。そもそも、BtoB企業にとって一般消費者に向けた広告や広報活動は必要なのだろうか。
BtoB企業としては早くから一般消費者に向けて広告・広報活動を積極的に展開してきた会社がある。株式会社村田製作所 <6981> だ。
村田製作所といえば、自転車型ロボット「ムラタセイサク君」が思い浮かぶ人も多いだろう。愛らしいフォルムのムラタセイサク君がテレビCMに登場するや話題となり、村田製作所の名前も多くの人に認知されるようになった。
そして昨年末、同社はまた注目度の高いテレビCMを発表して話題を呼んだ。電子部品の基盤の上で、青づくめの衣装に身を包んだ三体の人形が「自分さがし」や「見た目と中身」などについて話をしている。その不思議でコミカルな内容が、最先端の電子部品メーカーのCMなのに、ほのぼのと人間味に溢れる暖かさと親しみが感じられる。
そこで今回は、BtoB企業の広告・広報活動の必要性と目的について、村田製作所広報部部長・大島幸男氏に話を聞いた。
「確かに"BtoB企業に広告や広報は必要ない"という意見も、会社によっては、未だに根強くあるようです」と大島氏。かくいう村田製作所も、氏が広報担当に就任した1989年当時は、年間の広告予算が3000万円しか付かず、莫大な予算が掛かるテレビCMなどはもっての外だった。
村田製作所は、一般社会へ直接モノを売らない典型的なBtoB企業。一般消費者に向けていくらアピールしたところで、直接の利益には結びつかない。村田製作所は、「商品」ではなく「技術」を売る会社。社会的ブランドの構築や、広報宣伝活動に対する意識が薄かったのも当然といえよう。
大島氏いわく、「BtoB企業に特別な広報広告活動は不要」とする意見の理由の多くは次の6つのポイントに集約されるという。
(1)商品ブランドはターゲット市場で既に確立している。(2)一般社会への企業ブランド構築活動は売上・利益に結びつかない。(3)リクルート面では、派手な広告につられて来るような浮わついた人材はいらない。(4)社員の満足面でも、しっかりした経営をしていれば、社会的な認知度が低くても問題はない。(5)得意先対策、社会対策として余計な負担が要らないので、隠れた優良企業である方が都合が良い。(6)コストの回収ができない。
これらの意見に対して、大島氏はこう反論する。
「まず、多数の企業の中で「当社を知っているだろう」という考えは思い上がり。既存の市場だけでなく、新規市場を開拓するためには広報・広告活動は必須です。BtoBという企業の性質上、特定の市場に特化しています。技術革新による市場の突然の変化に対応し、チャンスを逃がさない為にも広報活動を行って社会的な認知を広める必要があります。また、今後の少子化時代に備え、より優秀な人材確保の面でも、ブランド志向に対応していかなくてはならないでしょう。さらに、既存の社員や家族に対しても満足度を高めることになり、社内の活性化にもつながります。良い会社であればこそ、自社の存在を広くアピールし、就職のチャンスを進んで拡大し、優れた社員確保に努め、優れた商品を提供し、発展し、株主や社会に貢献するべきです」
実際、村田製作所が広報活動を積極的に行う以前の89年~90年頃、日経イメージ調査によると、調査対象1200社の中での同社の評価は「一流評価」「就職意向」「認知度」ともに800位以下という燦々たる結果だった。しかし、広告展開をはじめてわずか2年後の92年には、就職意向は400位台、一流評価も500位台に浮上し、2007年には就職意向は156位、翌08年の一流評価は199位にまで躍進している。
直接の利益に結びつかなくても、BtoB企業が広告・広報活動を行うことには大きな意味があるようだ。