【小倉正男の経済コラム】FRBの独立性 トランプ候補は「NO」を宣言

2024年8月13日 09:14

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

■「大統領はFRBの政策に発言権をもつべきだ」というトランプ候補

 共和党の大統領候補トランプ前大統領が、大統領に返り咲いたらFRB(連邦準備制度理事会)の独立性に「NO」を突き付けるという発言をしている。FRBの金融政策決定に「大統領は少なくとも発言権を持つべきだと思う」と強調している。  トランプ前大統領は、大統領に戻ったら金利を大幅に下げたい意向が強い。FRBの政策決定に大統領が介入するのは当然という考え方を隠していない。何でも自分の思い通りにやるのでは、自ら専制君主になると言っているのに等しい。

 民主党の大統領候補であるハリス副大統領は、「FRBの政策決定には決して介入しない」と表明している。「FRBは大統領から独立して決定を下すべきである」と。権力が集中するのは良いことではない。金融政策に大統領が発言する。このあたりにトランプ前大統領の危なさが露呈している。

 「もしハリ」、最近ではそう話されている。「米国第一主義」「自分第一主義」のトランプ前大統領が返り咲いたら、世界は大変なことになる。「もしハリ」どころか、「ほぼハリ」「確ハリ」に駆け上がってほしい。

■「アベノミクス」=「日本第一主義」という産業保護

 トランプ前大統領が明らかにしたFRBの政策決定に介入するという考え方は筋金入りだ。政権の下にFRBを置き、政権の意のままの金融政策にしたい。それこそ本気でそう思っている。

 金利を下げれば景気を刺激して浮揚する効果が生まれる。そのうえドル安になる作用が期待できるから国内製造業などの競争力を保持し労働者の雇用を維持できる。競争条件を自国に有利にできる。それなりに “大義名分”が成立する。国内産業・雇用を保護するという「米国第一主義」にシンクロするわけである。

 いま考えれば、「アベノミクス」がその原型である。金利をゼロ~マイナスに下げて円安にする。「アベノミクス」も「日本第一主義」であり、自国産業の競争条件を引き下げて保護を行う。死んでいた株式を復活させた。だが、経済を牽引するテクノロジーを持った新成長企業を誕生させることはできなかった。古い産業、あるいはゾンビ企業を生き残らせることになった。

 トランプ大統領の考え方は、日本でいえば「日銀は政府の子会社」という理屈そのものだ。日本はこれを「空気」でやっている。しかし、トランプ前大統領は「空気」では満足できない。議会で法律をつくり、FRBは大統領に必ずお伺いを立ててから金融政策を決定する制度に変えたい。

■政府と中央銀行が平仄を合わせてもよいことはない

 7月末、日銀は政策決定会合で追加利上げ、国債買い入れ減額計画を決めた。政策金利を0・25%に引き上げた。日銀は経済指標(データ)を待つのではなく、やや拙速に追加利上げを急いだという見方が拭えない。政府は「円安是正」という課題を抱えており、いわば政治に引きずられたという見方である。

 植田和男総裁は政策決定後の会見で、今後の金融政策運営について「経済・物価の見通しが実現していくとすれば引き続き政策金利を上げていく」と発言。「円安是正」を意識したつもりか、年内再利上げについて「ここから先のデータ次第」と視野に入れるような発言に踏み込んでしまった。「円安是正」で政府と平仄を合わせ過ぎてしまった。

 米国は景気後退から9月に大幅利下げに踏み込む可能性が強い。拙速に動いてはいけない時期に0・25%の追加利上げを行った。「円安是正」のつもりが、急激に円高を促進させた。株式は乱高下の果て大暴落となった。

 その結果、内田眞一副総裁が「市場が不安定な状況では利上げはしない」と会見で火消しに動いた。1週間前の年内再利上げを視野に入れるという総裁発言を緊急否定している。短期間のうちにタカ派からハト派に変わってみせた。この急変は動揺を隠せないとみられても仕方ない。

 政府と中央銀行が平仄を合わせてもよいことはない。市場の混迷、乱高下はまだ収まっていない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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※この記事は日本インタビュ新聞社=Media-IRより提供を受けて配信しています。

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