相場展望8月5日号 米国株: 米国経済失速、利下げ9月は経済支えで濃厚、SOXは調整入り 日本株: 日経平均「調整局面」、海外勢「売攻勢」、金利引上げ犠牲多い

2024年8月5日 08:42

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)8/1、NYダウ▲494ドル安、40,347ドル
 2)8/2、NYダウ▲610ドル安、39,737ドル

【前回は】相場展望8月1日号 米国株: FRB議長「金利引下げ」発言で、(1)米国株高(2)金利低下(3)円高 日本株: (1)1日で5円もの円高 (2)対中国の輸出規制報道の危うさで日経平均はリスク

●2.米国株 : 米国経済は失速、利下げ9月は経済支えで濃厚、半導体株は調整入り

 1)7/31の上昇を、大きく打ち消す翌8/1、追い打ちの下げ8/2の株式相場
  ・主要株価推移     7/31    8/01    8/02
    NYダウ     + 99ドル高 ▲494安  ▲ 610安
    S&P500     + 85高   ▲ 75安  ▲ 100安
    ナスダック総合  + 451    ▲405   ▲ 417
    半導体株(SOX) + 343     ▲373   ▲ 251
    日経平均     +575円高   ▲975   ▲2,216

  ・7/31は日本株と同様に、米国の対中国・半導体規制強化の同盟国除外という情報根拠不明の「噂」が流れ、米国株と日本株は大幅上昇していた。8/1は「噂」が消え、前日の上昇を取り消すような下落となった。8/2は、米経済のソフトランディング(軟着陸)の懸念から、株式市場が売られ下落した。

 2)金利が大幅低下にも関わらず株価下落
  ・8/2は、米経済悪化懸念から、株式を売却し債券が買われたため、金利が低下。

  ・金利低下は、ハイテク株比率が相対的に高いナスダック総合が買われる展開となってきた。ところが、今回は金利が低下したにも関わらず、ナスダック総合や半導体株(SOX)が大きく売られた。NYダウやS&P500にも波及した。

  ・今回の下落の根底に「米国経済の悪化懸念」があることに留意したい。

 3)米国主要株価指数で、ハイテクは「調整局面入り」・NYダウは小幅安と分かれる
  ・米国主要株価指数の推移  最高値   8/2   下落幅  下落率
    NYダウ      7/17 41,198  39,737  ▲1,461 ▲ 3.54% 
    S&P500      7/16  5,667   5,346  ▲ 321 ▲ 5.66
    ナスダック総合   7/10 18,647   16,776  ▲1,871 ▲10.03
    半導体株(SOX)  7/10  5,904   4,607  ▲1,297 ▲21.96

  ・「調整局面入り」の定義は、▲10%超安が基準となる。調整局面入りとならば、株価回復には新たな材料と時間が必要となる。NYダウとS&P500は、調整局面入りしていない。ただ、半導体株を中心にハイテク株が多いナスダック総合は「調整局面」入りした。

  ・この半導体株(SOX)のは▲21.96%安で、回復には、時間がかかりそうである。半導体が牽引役となって米国株高を演じてきたため、NYダウ・S&P500も影響を受けると思われる。

 4)米国経済が失速の兆し⇒金利引下げで景気テコ入れ必要⇒9月金利引下げ強まる
  ・米国生産が低調

  ・米国ISM製造業景況指数7月46.8、前月48.5から下落し、8カ月ぶりの大幅な活動縮小。好不況の境目ととされる50を4カ月連続で下回った。

  ・労働市場の減速

  ・新規失業保険申請件数24.9万人増と前月23.5万人より増加、1年ぶりの高水準。

  ・雇用者数、7月は+11.4万人増で、予想+17.5万人増を下回る

  ・失業率は4.3%に跳ね上がる、6月は4.1%で4カ月連続の上昇。失業者数は1年前から1.2倍と急増。

  ・景況感悪化を受け、金利は低下しFRB政策金利引下げを呼び込む

  ・10年債利回りは一時3.78%まで下がり2年債利回りも4%を割り、2023年5月以降となる低水準になった。

  ・米国経済はソフトランディング(軟着陸)への可能性があったが、暗くなった。

 5)資源価格指数が低下、中国・欧州・米国の経済成長鈍化を反映して下落の可能性
  ・国際商品市況の推移
             7/1    7/3   8/1    8/2  7/1比
    CRB指数    291.57   294.02  273.59  270.13 ▲ 7.35%安
    WTI原油先物   83.38ドル  82.81   76.31  74.14 ▲11.08%安

  ・米国株安の原因が、米国経済失速であることを国際商品市況の低下が裏付けている可能性がある。

 6)利下げ観測の「期待で買って」、利下げ確定という「事実で売る」の格言通りか
  ・金利と株価指数の推移
               7/10   7/30   8/2
    米国10年債利回り  4.284%   4.139   3.792
    米国02年債利回り  4.620%   4.359   3.874
    ナスダック総合   18,697   17,147  16,776
    半導体株(SOX)   5,904   4,890   4,607

  ・ナスダック総合とSOXは7/10に最高値を付けたが、金利はまだ高値圏にあった。株式市場は利下げ観測の高まりとともに「金利低下という期待で株買い」を促した。その後、米国経済指標の発表とともに、米国経済の失速を示唆する情報が増えていき、米国経済がソフトランディング(軟着陸)するとの期待が縮んだ。

  ・ソフトランディング期待が裏切られる様相が濃くなり、株式市場は高値警戒感が強まり、リスク回避の売却⇒債券買いにつながった。金利も4%台から3%台に低下した。
 
  ・7/31のパウエルFRB議長の発言から、9月に政策金利引下げが濃厚となった。「金利低下という期待が事実となり」株式は売られる場面になった。

  ・さらに、金利の4%割れは株式市場にとって歓迎だが、要因が米国経済の悪化という「リスク回避のための株売り・債券買い」によるものであり、株式相場にとって8/1~2は逆風が強まった。

 7)気になるバフェット氏のバークシャー社は株式売却を継続、株式投資を縮小
  ・最近の株式売却の状況

  ・バンク・オブ・アメリカ(BofA)株を今年7月に12営業日連続で、7億7,900万ドルを売却。
  ・BofA株投資を始めた時の株価は5ドル近辺だった。8/2終値の株価は37.58ドル。
  ・8/1現在で保有するBofA株数は9億4,200万株・時価総額372億ドル。
  ・アップル株の保有は、ほぼ半減。
  ・中国BYDの株式も長期投資してきたが、売却を促進。
  ・台湾TSMCの株式を購入したが、短期間で全株を売却。

  ・現金保有は過去最高の40.6兆円になった。

  ・バフェット氏の株式投資の方針「リスクがほとんどなく、大きな利益が得られる」案件にしか、現金の使用を急ぐつもりなはい。

  ・著名投資家のバフェット氏の投資方針と株式売却が継続している現況を鑑みると 「株式市場の急落」を予想し現金化を進めている、と思われる。

 8)ナイフはまだ落ちている最中
  ・米国経済の失速は、米国株式市場の織り込みは始まったばかり。

  ・最近の米国株上昇を牽引してきたエヌビディアが、次世代半導体発売を3カ月延期すると発表した。

  ・ナスダック総合やSOX株指数などチャートは崩れており、底に達するまで時間調整と値幅調整が要るものと思われる。

●3.米国建設支出、6月は予想外の▲0.3%減、一戸建て住宅の建設が不振(ロイター)

 1)市場予想は+0.2%増だった。

●4.米国労働生産性、4~6月は前年比+2.3%上昇、市場予想+1.8%、インフレ圧力低下

 1)単位労働コストは前年同期比+0.5%上昇、コロナ禍前以来の低い伸び(ブルームバーグ)

●5.米国新規失業保険申請件数、ほぼ1年ぶりの高水準、労働市場減速を示唆(ブルームバーグ)

●6.米国ISM製造業景気指数、7月は46.8に低下、8カ月ぶり低水準(ロイター)

 1)6月の48.5からも低下し、拡大・縮小の分岐点となる50を4カ月連続で下回った。
 

●7.台湾TSMC株、7月で▲3.3%下落、外国勢が過去最大の8,680億円売り越し(ブルームバーグ)

 1)TSMC株は6月までの9カ月連続で値上がりし、この間で+85%上昇していた。

●8.英国半導体設計のアーム、利益見通しが予想に届かず、株価急落(Quick Money)

●9.モデルナ、2024年売上高見通しを下方修正、EU向けの不調が響く(ロイター)

●10.クアルコム、7~9月期の見通しが予想を上回るも、株安に(Quick Money)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)8/1、上海総合▲6安、2,932
 2)8/2、上海総合▲27安、2,905

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)8/1、日経平均▲975円安、38,126円 
 2)8/2、日経平均▲2,216円安、35,909円 

●2.日本株:日経平均は「調整局面」、海外勢「売攻勢」、金利引上げは犠牲多い

 1)日経平均は調整局面入り
  ・日経平均の推移
    7/11高値 42,224円
    8/02   35,909円
    差異  ▲6,315円

  ・この間の下落率は▲14.95%、調整局面入りとされる基準の▲10%を超えており、日経平均は調整局面に入ったと認定される。

  ・8/3の米国株の下落の影響を受け、日経平均は8/5も約▲1,0 00円程度の下落が

 2)米国株に差を付けられる日本株
  ・米国・日本の主要株価指数の推移
          7/11    7/31   8/1   8/2   7/11比
    NYダウ  39,753ドル 40,842  40,347  39,737 ▲16 ▲ 0.04%安
    日経平均  42,224円  39,101  38,126  35,909 ▲6,315▲14.95%安
     差異  +2,471   ▲1,741  ▲2,221  ▲3,838

  ・NYダウは7/11比で▲16安にしか過ぎないが、日経平均は▲6,315円安と一方的な下落となった。

  ・日経平均の下げの要因として、急激な円高がある。米国半導体株の下落と、貿易国ある日本の自動車・機械など輸出関連株の下落が足を引ったと思われる。

  ・海外短期筋の積極的な売りも負の要因となった。

 3)海外短期筋の売り攻勢が継続し、日経平均の下げを主導
  ・このところの日経平均の下落は、海外短期筋の売り攻勢が主導している。8/3に日経平均は▲2,216円安・▲5.81%下落したが、海外短期筋による先物売りがリードしたようだ。

  ・米国経済の失速懸念も強まっているなか、米国株の牽引役の半導体株が大きく売られている。この流れからすると、日本株に対する海外短期筋の先物売りを主導とする売り攻勢がしばらく継続すると思われる。

 4)8/2、円相場は146円台に急伸、4カ月半ぶりの円高・ドル安水準
  ・日米金利差の推移
              7/01    7/30    7/31   8/1   8/2
    日本10年債金利  1.068%  0.999   1.044  1.033  0.939
    米国10年債金利  4.461   4.139   4.030  3.976  3.792
     日米の金利差  3.393   3.140   2.986  2.943  2.853

  ・日米金利差の縮小で、為替は「円高・ドル安」に傾く。
   ・円・ドル相場の推移
          7/01   7/03  7/30  7/31  8/1   8/2  8/2米国時間
     円相場 160.90円 161.89 154.84 152.79 149.85 149.17  146.56
 
  ・円相場は、7/3比で15.33 円の円高、7/31比で6.23 円の円高と円相場は急伸。なお、8/5に円相場は145円台を付けた。

 5)7月3~4週は、海外短期筋の売り攻勢で、日経平均は急落
  ・7月3~4週(7/16~26)に、海外短期筋が約▲2.4兆円の売り仕掛をして、日経平均は▲3,523円の大幅安となった。
    海外投資家の売り          日経平均
     現物株 ▲  8,119億円       7/15  41,190円
     先物  ▲1兆5,673億円       7/26  37,667円
     合計  ▲2兆3,792億円       下落幅 ▲3,523円
                       下落率 ▲8.55%安

 6)実質賃金、消費、GOPが下落するなかの「金利引上げ」は日本成長と家計を犠牲
  ・実質賃金がマイナス26カ月連続のなか、庶民は生活費を切り詰め、国内総生産(GDP)は減退している。唯一、元気なのは日本株式相場だけであった。

  ・その日本株も、米国の経済成長鈍化のなか、米国金利低下で米国経済の下支えが必要となってきた。米国のFRBによる金利低下期待の高まりで、米国金利は低下し日米金利差は縮小に向かっている。為替市場もその変化を受け、円高・ドル安が急速に進展している。

  ・そうしたなか、日銀は政策金利を+0.25%引上げ決定を7/31にした。これで、ますます日米金利差は縮小することになる。結果、7/1比で円相場は15円、7/30比で6円もの急激な円高となった。

  ・植田和夫・日銀総裁は、就任直後の1年4カ月前に「金利引上げ」で円安進行に歯止めをかけ、輸入物価高騰を抑制するべきであった。46円もの円安を進展させておいて、実質賃金マイナスに寄与したのは植田日銀総裁が何もしなかった仕事の成果である。

  ・税制の理屈を捻じ曲げても増税につぐ増税をして国民から搾り取り、国民生活を貧しくさせた岸田首相の増税政策のおかげで、一般国民は生活費の切り詰めに追い込まれた。消費支出は減少し、GDPはマイナス方向にある。

  ・今、日銀の金利引上げは、そのマイナスを膨らませることになる。国民から税負担割合を引上げてまで増税して海外に金をばらまく岸田首相は、日銀と話し合った結果だと言う。なお、日銀の金利引上げで利益を得るのは、銀行業界で日銀への預金金利上昇で年8,000億円の利益と貸出の利ザヤ拡大を得られる。多くの企業は借入金利上昇負担が増す。ただ、銀行も貸出先企業収益の悪化で貸倒れリスクが増す。

  ・このような日本株式市場を、海外短期筋はどのような思いで見つめているのだろうか?「決して買いではない。売りスタンス」の局面と映っているのではないか。その回答が、株価指数先物の売り動向に表れる。8/2の史上2番目となる日経平均の大幅下落につながったかもしれない。

●3.NISA初心者に試練、株価急落で広がる動揺(時事通信)

 1)1月に始めた新たな少額投資非課税制度(NISA)をきっかけに参入した投資初心者に動揺が広がっている。

●4.ホンダと日産、ソフトウェア基礎技術の共同研究、EV部品共通化へ(NHKより抜粋

 1)両社の枠組みに三菱自も新たに参画し、海外メーカーが先行する次世代技術開発で提携の動きが広がっている。

●5.トヨタ、4~6月期営業利益は前年同期比+17%増の+1兆3,084億円(ロイター)

 1)円安が寄与したが、通期予想は据え置き。

●6.三菱UFJ、4~6月期純利益+5,558億円、業務利益は過去最高(ロイター)

●7.任天堂、4~6月期営業利益は前年同期比▲71%減545億円、予想937億円も下回る

 1)前年の反動が大きく、スイッチ▲46%減。(ブルームバーグ)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・4107 伊勢化学     ヨウ素生産に強み
 ・4188 三菱ケミカル   業績好調
 ・7259 アイシン     業績好調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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