5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (81)

2024年7月31日 09:09

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 クリエイティブ従事者は2つのタイプに分類されます。強いクリエイティブの追求を最優先してしまうがゆえに、組織内でのキャリア形成をついつい後回しにしてしまう者。そして、会社・組織の価値に染まる(教化される)のではなく、飽くまで染まったふりをしながら、独自の価値観やセルフイメージに沿ってキャリアを確実に歩んでいく者。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (80)

 皆さんは、どちらのタイプでしょうか?

■(81)「個人のニーズ」が業務とマッチするか。職務・役割が「組織のニーズ」から戦略的にプランニングされているか。


 組織心理学者のエドガー・シャインは、個人が何らかの選択を迫られた時にその人独自の「譲れない・放棄したがらない欲求、価値観、能力(才能)」など職業生活の拠り所となるものや自己像の中心を示すものを「キャリア・アンカー」と名付けました。

 個人のキャリアを船に例えた場合、それをつなぎ止める錨(いかり)の働きをし、個人のキャリアを安定させるのに役立つもの。それが、キャリア・アンカーです。

 このキャリア・アンカーを「自己概念」として確立するには、一定の職業経験による実績と確信、成功と挫折を繰り返す「反復蓄積」が不可欠であるとシャインは唱えています(※「自己概念」とは主観的に形成した自己と他者からのフィードバックで形成された自己が統合構築される概念のこと)。

 難度の高い業務における成功体験と、挑んで撃沈した失敗体験。この反復から、確かなキャリア・アンカーが形成されていきます。

 キャリア・アンカーには下記8つのタイプがあり、それらは職業上の重要な意思決定に影響を与え続けると言われています。

 (1)特定の業界・職種・分野へのこだわり 
 (2)組織内の管理的職位を目指す
 (3)規則や制限に縛られず、自律的であること
 (4)生活の保障、安定を第一とする
 (5)新規のアイデアによる起業や創業を望む
 (6)常に誰もしたことがないチャレンジングなことに取り組む
 (7)仕事の上で人に役立っていることを重視する
 (8)仕事生活と他の生活との調和を重視する

 では、これらを定着させるためにどうするか? 

 まず、これらを「公言」するのです。「譲れない欲求・価値観・能力」を根付かせるために、気炎を上げましょう。イタい行為と思ってはいけません。

 会社員時代、期初面談時に必ずキャリア・アンカーを上長に宣言していました。専用シートに強制記入させられるのです。視座高めに宣言しないと、「小林ぃぃ、お前さぁぁ………筆圧、弱すぎだろぉぉ~」と低音ボイスで訂正を求められたものでした。1年後の成果・評価・振り返りのために、ここで上長としっかり握っておくのです。

 上長は、面談において「個人のニーズ」を明らかにし、それが今の業務とマッチングしているか否かを見定めていました。同時に「組織のニーズ」から、職務・役割といったチーム内の配置を戦略的にプランニングしていたのだと思います。

 難しいのは、「上長が求める職務・役割」と「本人の志向」が合わなかった時です。なりたい理想の自分に繋げられるように、自身のアンカーを実現する具体策を面談前に可視化しておくことが必要です。あとは、その策でサバイブしていけるか否かを話し合えばよいのです。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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