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【小倉正男の経済コラム】「シン・バブル」 株価は最高値更新、バブル期のデジャブも
■日経平均は過去最高値を一気に更新
2月22日、日経平均株価は史上最高値を更新した。日経平均は取引時間中に3万9156円に上昇し、終値は3万9098円となった。過去の最高値は1989年12月29日の終値3万8915円――。34年前のあのバブル真っ最中の出来事である。
世のなか思いも寄らぬことが少なくないが、バブル期の最高値を一気に追い抜いている。きっかけは21日(日本時間22日早朝)の米国半導体大手エヌビディアの決算発表である。いまの日経平均は半導体関連企業がけん引している。エヌビディアの市場予想を上回る凄まじい好決算が日経平均に火をつけた格好である。
「こんな景色を見るとは・・・」「株価は何故上がっているのか」「やはりバブルなのだろうか」――。 1980年代後半の不動産バブル、そしてバブル崩壊後の「失われた30年」を生きてきた友人たちからは、様々な感慨が上がっている。
■「配当を減らして賃上げしろ」では最高値更新はなかった
岸田文雄総理は就任した当初に「新しい資本主義」を標榜している。「四半期決算は忙しいから中間期、通期の2期決算に戻せ」「株主への配当増、自己株買いを止めて、その分を社員の給料に廻せ」などと力説していたものである。
岸田総理はいまの最高値更新も自分の手柄にしたいだろうが、提唱した「新しい資本主義」においそれと従っていたら最高値更新はなかったに違いない。
四半期決算を止めて2期決算にしろというのは、遅れているコーポレート・ガバナンス改革をさらに後退させる行為にほかならない。「決算情報を疎かにするが、株式を購入しろ」というのは無茶苦茶といえる。「決算は良くても悪くても情報を適時に包み隠さず開示する。だから株式を買ってくれ」というのがコーポレート・ガバナンスの第一歩である。
「配当、自己株買いを減らして、社員の給料に廻せ」というのもやや的外れに近い。経済成長のパイが一定で、成長がないことを前提にしている。それより何より政治権力が民間企業に配当を減らして賃上げに廻せというのは、資本主義とはいえない。立派にというか、れっきとした「社会主義」の範疇に入る。
■最高値をもたらした根底に配当増、自己株買いという変化
いまの企業の配当、自己株買いなど還元は、以前と比べると様相が違っている。例えば、少し以前までは配当性向30%など高配当とみられていた。私など10年ほど前に親しくしていた経営者から「ウチは配当性向30%にする」と宣言されて驚いたものだ。しかし、いまの日本企業は配当性向30%といえばどちらかといえば平均的な部類になる。
配当性向30%というのは、つまりその期の純利益の30%を配当に廻すことだ。ところが、直近では総還元性向80%、あるいは総還元性向100%という企業も現れている。配当に加えて自己株買いも行って、その期の純利益の80%、あるいは100%を還元している。それで企業活動は可能なのか――。
しかし、設備投資、賃上げをした後の純利益であり、総還元性向80%~100%というのもあり得るということになる。企業は株主への還元を強めてきている。そうした資本政策の変更、すなわち配当、自己株買いなど還元という変化が起こっている。
そのうえ企業は1株利益が100円台どころか200円~300円台に変化している。日経平均の最高値更新を牽引している半導体製造装置、半導体部材企業など軒並みに1株利益600円台にある。そうした企業サイドの変化が、日経平均最高値更新という「シン・バブル」をもたらした根底にある。
■いまの「シン・バブル」は格差社会で勃発
34年前の株価最高値を付けた時代は、いまのような「格差社会」という様相はむしろ希薄だった。
あの不動産バブルは、富裕層のセレブ階級と一般の普通の人々と二極化が始まった時期といえるに違いない。「一億総中流」がまだ気分としては色濃く残っていた。しかし、昭和の「一億総中流」から平成、令和の「格差社会」に徐々に世の中は変化を遂げていった。
バブル、バブル崩壊を経過しながら「一億総中流」は終焉し、上と下への分極化が止まらない。2024年の「シン・バブル」は、セレブ階級と普通~普通以下の階級の二極化の果て、すなわち「格差社会」で勃発している。それがバブル期との違いといえば違いといえる。
バブル期のデジャブ(既視感)は、富裕層がインフレ利益を享受していることだ。インフレは不動産、株式など資産を持っている階層に恩恵が大きい。不動産バブル時代にいわれた「金持ちはより金持ちに」というデジャブがすでに起こっているのも一方の事実である。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)
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※この記事は日本インタビュ新聞社=Media-IRより提供を受けて配信しています。
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