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アステラス製薬のM&A戦略にみる、大手医薬品が背負う宿命 新薬開発が容易でない事実
アステラス製薬(東証プライム)が5月1日、約8000億円を投じ米国のバイオ医薬品メーカー:アイベリック・バイオ社を買収すると発表した。アイベリック社は2007年設立。眼科医療の研究開発に強み持っている。視力低下の原因となる「加齢黄斑変性」の治療薬を米国FDAに審査を申請し、買収への道筋はついた。
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アステラス製薬の岡村直樹社長は、「2014年頃から注目してきた。同剤の獲得は主力のイクスタンジ(前立腺癌治療薬)の特許切れに伴う27年以降の売上を補う、第3の柱になることを期待している」とした上で、「眼科疾患領域のリーディングポジションとしての地位確立を目指す」とした。
アステラス製薬の2023年3月期の決算資料を確認しても、イクスタンジの存在感は圧倒的。主力製品の売上高として6種の治療薬:1兆1427億円を示しているが、そのうちイクスタンジの売上高は58%近い6611億円を占めている。そんな存在の特許切れが近づく中で、手をこまねいてはいられない。
ある意味で大手製薬会社の歴史は、M&Aの歴史と捉えることができる。周知の通りアステラス製薬自体が、2005年4月に旧山之内製薬と旧藤沢薬品の合併で誕生した。そして以降、11回のM&Aを実行している。今回(7~9月に買収完了予定)は12回目。
が今回の「社運を賭けた」M&Aに悪意の類など全くないが、過去を振り返るとすべてが右から左に容易に進んでいないケースがあることも事実。
アステラス製薬は2020年に約3200億円を投じ、米国のベンチャー企業:オーデンテス社を買収している。狙いは「最大1000億円市場にも」とされていた、遺伝子治療薬:AT132だった。
が未だに、AT132はFDAの認証に至っていない。2020年8月までの治験で高用量を投与された被験者23名のうち、3名が死亡。FDAから差し止め指示を受け治験を中断した。FDAとの協議し投与量を減らす治験プログラムに変更し、12月から治験は再開したが・・・2023年3月期の決算説明会でアステラス製薬は「AT132については、臨床試験差し止めに対するFDAへの初回の回答提出を第3四半期に行い、現在も継続して協議を行っている」としている。
ちなみにAT132の治療対象は、稀な遺伝子性の病気。新生児が重度の筋力低下や呼吸障害で死に至る難病で、現時点で治療法はない。
大手製薬企業の新薬開発は、決して容易でない。(記事:千葉明・記事一覧を見る)
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