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TSMCの熊本新工場が、24年に操業を開始するので・・・(下)
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TSMCは製造だけを行うファウンドリー(製造受託企業)としての「下積み」生活の中で、世界のどの企業もマネのできないような、半導体の超微細化技術を段階的に手中に納めた。
【前回は】TSMCの熊本新工場が、24年に操業を開始するので・・・(上)
従来半導体の製造でトップランナーだった米インテルは、16年にそれまで製造していた半導体の線幅を14nmから10nm(ナノメートル・ナノは10億分の1)へと引き上げる挑戦に挫折し、微細化競争から脱落した。逆にTSMCは20年に線幅5nmの量産化にも成功し独走体制を確立した。
この時点でTSMCは単なる「下請け工場」から、半導体の価格決定力を持つモンスターに変身したと言える。
半導体は回路の線幅を細くするほどに、処理スピードと電力効率が向上して高性能化が進む。電子顕微鏡の視認限界が0.2nmだから、現在量産体制にある最先端半導体の回路線幅3nmを見分けることは何とかできるが、もしあと10数倍の微細化が進んだ場合には、電子顕微鏡ですら視認できない可能性がある。もはや神の領域に踏み込んでいるのかも知れない。
TSMCが九州の熊本工場で製造する半導体の線幅は22~28nmだから、ざっと表現するとおよそ10年前に量産技術が確立されたレベルの製品だ。アップルが最新型のiphoneに大量に組み込む規格ではないが、巷に溢れる電子機器の動作を支える機能に問題はない。
俗な表現をすれば、普及タイプということになるが、汎用性の高さや利用領域の広がりを考えると使い勝手のいい製品ということになる。
既にTSMCは、熊本に第2工場の建設を検討中と伝えられているから、地域経済への波及効果も絶大だ。日経新聞がまとめた23年度の設備投資動向調査では、九州・沖縄に於ける企業の投資額が、前年実績から30%以上増加して絶好調だ。今や「産業のコメ」とも評される半導体の影響力は、産業の裾野の奥深さと広がりには目を見張るものがある。
熊本大学では、昨年立ち上げた「大学院先端科学研究部付属半導体研究教育センター」を、23年4月に「半導体・デジタル研究教育機構」に格上げして、先端技術者の人材育成に向かっている。
社会に於いて半導体が占める存在感の大きさと重さを考えると、人材を育成して安定的に供給する体制は欠かせないからだ。少子化が進行中の日本では、教育機関の間口も将来的には淘汰へ向かうことは避けられない。
TSMCへの効果的な対応が、結果的には熊本大学の知名度と存在感を引き上げ、大学同士の生き残り競争を勝ち抜くファクターにすらなり得る。
熊本県では24年のTSMC熊本新工場の操業開始へ向けた、熱い動きが進行中だ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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