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銀行の破綻と預金者保護に揺れる、本音と建前 (2)
3月10日にシリコンバレー銀行(SVB)の破綻が公表され、米連邦預金保険公社(FDIC)は上限付きの預金保護を発動した。FDICが破綻管財人となって、1口座当たりの保護上限が25万ドル(約3300万円)という、いわゆる預金保険制度の発動である。
【前回は】銀行の破綻と預金者保護に揺れる、本音と建前 (1)
ところが僅か2日後の3月12日になって、米財務省高官がSVBとその後に破綻したシグネチャー銀行の預金者を全て保護することになったと発表した。但し、預金者に株式や債券の保有者は含まれない。
22年12月末に於けるSVBの総資産は約2090億ドル(約28兆円)で、全米16位にランクされる資産規模だった。破綻規模では08年9月にリーマンショックのさなかに経営破綻した、ワシントン・ミューチュアルに次ぐ史上2番目の規模になることを考慮し、「システミックリスク」を回避するために米財務省が下した異例の方針転換だった。バイデン大統領とイエレン財務長官が協議をした上で、建前を超越した特例の方針が示されたことになる。
確かにロシアのウクライナ侵攻が長期化し、得体の知れない不安が世界を覆っている時期だったためドラスティックな対応になったようだ。
特例の適用は、SVBを起点とする不安の解消には効果があるにしても、「特例」である限り「次は対象にならない」という不安を増幅させるジレンマも抱える。
次に経営不安が取り沙汰される金融機関が発生した場合に、再び特例で対応すると、金融機関に求めていた経営規律は幻に変わる。反対に、原則通りに預金の保護上限を設定すると、パニックを呼び込みかねない。今回適用された「特例」が、問題を先送りしただけになる可能性すら懸念される。
既に、SVBの破綻を追いかけるかのように危機が報じられたクレディ・スイスは、スイス政府と金融当局の仲介を受け、スイス金融最大手のUSBにあっという間にたった約4200億円で買収されることが決定した。
過去に様々なトラブルが報じられて来たにしても、クレディ・スイスが買い叩かれる立場になったきっかけは、22年の決算が73億9300万フラン(約1兆円)の赤字と発表したことと、筆頭株主のサウジ・ナショナル・バンクの会長が追加出資を否定した影響を関連付ける論調が主流だ。だがその発言を受けて株価が大幅に低下したことや、今後経営再建のために不可欠なリストラの実施で多額の赤字が見込まれることなど、複雑な背景と影響の拡大を懸念して早期決着を図った。
アメリカもスイスも、金融恐慌の引き金を引いたと指弾されることを「ひとまず」回避した。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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