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1.2022 年8月期の事業報告 2.2023 年8月期の業績予想
鈴木基男氏(以下、鈴木):こんにちは。ほぼ日の鈴木でございます。本日はお越しいただきありがとうございます。本日は2022年8月期の通期決算についてご説明したいと思います。私から決算についてご説明した後、糸井より今期の振り返りについてお話しできればと思います。
それではさっそくですが、説明のハイライトです。2022年8月期の事業報告ですが、当期は「ほぼ日手帳」の海外直販および卸が好調に推移しました。それに加えて、3年ぶりにようやく開催できた「生活のたのしみ展」などによって、売上高は4.8パーセントの増収、経常利益は70.3パーセントの増益となりました。業績予想に対しても、おおむね予想どおりの着地となっています。配当に関しても、配当予想どおり1株あたり45円として、従来の水準を維持しています。
続いて、2023年8月期の業績予想についてです。売上高は海外への直販や新たなジャンルの商品開発に注力し、前年比6.6パーセントの増加を見込んでいます。昨今の世界情勢を踏まえて、仕入原価の上昇や販売・物流関連業務などのコスト増が予想される環境ですが、経常利益は前年比20.4パーセント増を予定しています。配当予想も、昨年と同水準の1株あたり45円としています。
売上高は、前期比約4.8 %の増収、過去最高水準となりました
2022年8月期の事業報告についてブレークダウンします。売上高は前期比約4.8パーセントの増収となり、過去最高水準となっています。金額で言いますと、スライド下段の表のとおり、売上高は59億700万円、内訳としては「ほぼ日手帳」で32億2,400万円、「ほぼ日商品」で21億6,100万円、「その他」については主に送料の売上によるもので、5億2,100万円となっています。
当期の「ほぼ日手帳」については、引き続き海外売上の増加傾向が続いていますが、こちらに加えて「ひきだしポーチ」や「ほぼ日ノオト」といった手帳関連グッズの売上の増加により、「ほぼ日手帳」全体の売上高は前期比9.5パーセントの増加となっています。「ほぼ日手帳」というくくりの商材において、国内と海外の売上高の比率は、海外が46パーセントにまで達しており、売上高の半分程度は、実は海外在住の方の利用によるものです。
「ほぼ日商品」については、4月29日から6日間にわたり過去最大規模において「生活のたのしみ展」を開催することができました。一方、収益認識に関する会計基準の適用によって、売上の一部を純額で認識していることに加え、「HOBONICHI MOTHER PROJECT」およびファッション関連商材の販売が減少した結果、前期比4.3パーセントの減少となっています。「その他」の売上高は、主に海外への出荷増に伴う送料売上の増加により、前期比20.2パーセントの増加となり、結果として59億700万円という着地となっています。
当期は増収増益
各段階利益について、当期は増収増益となっています。売上原価率は44.4パーセントとなり、前期比0.8ポイント減となり、前々期に比べて改善したところを維持、または改善しているという状況が引き続きキープされています。
販売費及び一般管理費について、前期は本社および店舗などの移転新設に係る一時的な費用が1億5,600万円程度発生していましたが、こちらに関して当期は発生しなかった一方で、直販の海外売上の増加に伴う販売物流費用の増加、新型コロナウイルス感染症の影響による国際物流コスト、いわゆる単価の増加などがありました。また、3年ぶりの開催となった「生活のたのしみ展」という大型イベントの開催があり、そこで発生する諸々のコストなどがあるため、全体では前期に比べて増加しています。
結果として、営業利益2億7,500万円、前期比で76.7パーセントの増加、経常利益2億9,000万円、前期比で70.3パーセントの増加と大きく増益となっています。当期純利益に関しては2億500万円となり、前期比で4.4パーセントの増加となっていますが、この要因について、前期は特別利益として投資有価証券の一部売却による売却益が約1億1,200万円出ていたため、このような結果となっています。
海外売上高の構成比率が27.5% に増加
海外売上高については、引き続き数字が伸びています。先ほど「ほぼ日手帳」というジャンルに関して海外売上高の比率が46パーセントになったことをお伝えしましたが、全体においても海外売上高の構成比は27.5パーセントとなっています。前期と比べて2億4,600万円の増加となり、比率として約3ポイント伸びている状況です。
海外売上高は前期比17.9% 増
海外のどのエリアで伸びているのかというと、内訳はスライドのとおりです。全体として、海外売上高は前期比17.9パーセント増となっていますが、中でも特に伸びているエリアはアメリカやカナダなどの北中米になります。伸び率も大きい状況ではありますが、市場規模といったところでも、昨年の5億2,200万円程度から、当期は7億6,000万円弱にまで進捗しています。
その他のエリアについても、中華圏がやや減少していますが、基本的には2桁成長となっている状況であり、海外のお客さまから受け入れられ、総量が増えていることがうかがえます。
貸借対照表
貸借対照表についてです。特に大きなコメントはありませんが、棚卸資産が増加しています。こちらについては後ほどキャッシュ・フローのところでお伝えしますが、主に新しい年度の手帳・文具に係る商品の入荷によるものとなっています。
キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書です。前期末残高は17億7,300万円、当期末残高が16億1,800万円と、キャッシュ・フローで減少している状況です。内容としては、営業活動によるキャッシュ・フローが2億100万円、投資活動によるキャッシュ・フローがマイナス2億5,500万円、財務活動によるキャッシュ・フローがマイナス1億600万円となっています。
営業活動によるキャッシュ・フローについて、新型コロナウイルス感染症の影響により、例えば手帳のカバーといった諸外国で作るものの生産体制が少し不安定になる状況がありました。また、港から商品などを運ぶ際、検査や消毒をしっかりと行うといった対応などにより遅れることが予想されています。そのあたりの物流遅延によって、9月1日発売というタイミングを逃すことのないように、仕入れの時期をやや前倒しで計画し進めていました。
そのため、例年と比較すると仕入れの支払いのタイミングが早まっており、その結果として営業活動によるキャッシュ・フローはプラス2億100万円にとどまっていますが、こちらはこのような一時的な事情によるものとなっています。
投資活動によるキャッシュ・フローは、無形固定資産の取得および長期前払費用の取得による支出で、どちらも主に「ほぼ日の學校」に係るものとなっています。財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払額が主な内容です。以上が2022年8月期決算の説明になります。
第45 期は売上高で 6.6% 増の見込み。
2023年8月期の業績予想に移ります。この期を第45期と呼んでいますが、売上高は前年比6.6パーセント増の見込みとなっています。金額で言いますと売上高は63億円、内訳としては「ほぼ日手帳」で35億円、「ほぼ日商品」で22億1,000万円、「その他」で5億9,000万円となっています。主に「ほぼ日手帳」がさらに伸びると予想し、63億円という数字を見込んでいます。
売上原価率については引き続き同水準を維持し、また、販管費についても、海外で伸びるという状況から、海外での販売に伴うコストが増加することが予想されるため、31億5,000万円となっています。結果として、営業利益3億5,000万円、当期純利益2億4,000万円という数字を見込んでいます。
ウクライナ紛争の長期化や新型コロナウイルス感染症などにより、不確実な環境はまだ継続していますが、「ほぼ日手帳」1日1ページの本体コラボ、英語版ラインナップの拡充によるさらなる広がりおよび寝具や化粧品などの新たなジャンルの商品開発に注力し、当期の売上高としては前年比6.6パーセント増を見込んでいます。
「ほぼ日手帳」1日1ページの本体コラボについてご説明します。これまで、例えばイラストレーターで絵本作家のヨシタケシンスケさまのカバーを製作するなど、いろいろなアーティストの方とカバーやグッズにおいてコラボレーションすることはあったのですが、今回は初めて、1日1ページの手帳本体において『ONE PIECE』とコラボしています。
「ほぼ日手帳」に掲載の「日々の言葉」が『ONE PIECE』の中から抽出されており、また、『ONE PIECE』のキャラクターには誕生日がありますので、「何月何日は誰の誕生日」ということが書いてあるなど、1日1ページの本体がしっかりとコラボレーションするという初めての試みです。
また、英語版ラインナップの拡充については、これまで海外売上高がよく伸びているとお伝えしていますが、基本的には日本語の商品が多いため、英語版の商品化を進めて当期に発売している状況です。
一方で、海外直販増加に伴って増加する販売手数料などのコストに加え、国際情勢の不安定化に伴う原材料費の高騰、および外国為替相場の変動によって仕入原価の上昇や販売・物流関連業務のコスト増は引き続き予想されていますが、こちらも44期と同様に適時の対応をとっていきながら収益性の悪化を防止し、経常利益は前年比20.4パーセント増を予定しています。業績予想の説明は以上になります。
『ONE PIECE』×「ほぼ日手帳2023」
最近のニュースについてご説明します。1つ目は10月1日に発売した、『ONE PIECE』とコラボして販売している手帳についてです。まずは自分の誕生日のページをチェックしていただき、例えば「子どもの誕生日は誰が載っているのだろう?」といったように楽しんでいただければと思います。
「ほぼ日手帳HON」
2つ目は、ほぼ日手帳について「HON」と書いて「ホン」というラインナップを12月1日から発売します。「ほぼ日手帳」と言いますと、カバーとセットで使う手帳という商品ですが、あえて、カバーがなくてもこれだけで使うことができる手帳をあらためて作り直すことで、より広く、さらに多くのお客さまへ手に取ってもらえる商品になるよう開発しています。
3つ目は昨日出したプレスリリースになりますが、グローバル越境EC向けサービスを提供するGlobal-e社と契約しました。「ほぼ日商品」、主に「ほぼ日手帳」について、海外のお客さまが購入する場所は現地の店舗や「Amazon」を通じた購入、中国だと「天猫国際」というアリババグループのモールといったところでお買い上げいただいていますが、「ほぼ日ストア」という私たちが直営で運営しているECサイトから購入いただくお客様が多くいらっしゃいます。
こちらのサイトに海外のお客さまがアクセスして購入し、海外向けに発送しているというケースが非常に多くあります。しかし現状では、英語表記によって対応しているものの、その他の言語対応ができておらず、決済の手段や通貨の表示のようなところにおいてもお客さまにとって親切とはなかなか言いがたい状況です。
そこでこのほど、そのGlobal-e社と契約し、海外のお客さまが「ほぼ日ストア」という私たちの直接運営しているECサイトから買い物する時に、自分のよく使っている通貨、決済手段で購入することができるように対応するためのサービスを導入します。こちらは来年9月からローンチ予定です。海外のお客さまへ、さらに「ほぼ日」および「ほぼ日手帳」のある暮らしを体験してほしいと思って進めています。ニュースとしては以上です。ではここから、糸井にバトンタッチします。
糸井重里氏(以下、糸井):糸井重里でございます。新型コロナウイルスで休んでいる間に、自分の内面や気持ちが、ずいぶん変わりました。郷に入れば郷に従えで、できるかぎり自分をこの場所に合わせて話そう、この場所に合わせた何かを語ろうというつもりが、とても強かったです。そのため、正直なところ、今ひとつのびのびできていませんでした。
この2年間、そのような時代だということを、よく考える機会がありました。輪郭については、おおよそもう描けるので、同じような話をより詳しくしても仕方がないです。
それよりも私たちのグループやチームが、今どのようなことを行っており、どのようなつもりで未来に向かっていくのかを共有できればと思います。そのため今までと少し違ったことをお話しします。
新型コロナウイルスが自分を変えたという言い方は少し変かもしれませんが、大変だと思いました。他の会社も同じことですが、行動を抑制しながら明日に向かっていかねばならず、それは人間にとってかなり辛いことです。ほとんどの方々は、何かを思い切りやれば、相応のリスクがあることを常に意識しつつ、思いきり行動するというような、自己矛盾的な毎日を過ごしていたと思います。
コロナ禍で医療や教育の現場、一般企業、外で仕事する必要がある方々、さらにスポーツにおいても、みなさまは今までにない経験をしました。同時に自分たちはこの先、何が大事でどうすれば生き延びていけるか、それと同時に社会から喜ばれるような活動ができるのかということを、本気で考えなければならなくなりました。
中には補助金を頼りに事業を展開するという方法を取った方々もいらっしゃるでしょう。またそれぞれの会社が、この期間に何ができるだろうかということに、相当真剣に取り組んだと思います。
私たちは根本的に、エンターテイメントの会社だと思っています。分類上は小売業ということになっていますが、実態としては、営業がいるわけでもなければ、店舗がたくさんあるわけでもありません。コマーシャルについても、ほとんどコストをかけてません。その意味では一般的な小売業とは違う会社だと思っていました。
もともと、小売業と言ってよいのかという疑問を持っており、その疑問がますます強くなりました。小売業の歴史については、私たちなりに学んできたつもりです。世間的にも、いわゆるユニクロ型やコンビニの全盛、会社と会社が合併してプラットホームとしての意味を強めていくなど、さまざまな歴史があります。
小売業という意味では、私たちはお客さまと直に対面する、あるいはデバイスとして接するというかたちをとっています。しかし、ほぼ日がみなさまに受け入れられている要素というのはなんだろう、と考えてみました。今流行りの言葉で言えば、コミュニティとしての意味が非常に高いと思います。
もう1つの意味は、コンテンツの魅力です。それが私たちの一つひとつの商品を支え、同時に小売業としての売上を作っています。「ほぼ日手帳」については、非常にわかりやすい例として『ONE PIECE』とのコラボレーションの手帳のことをお話ししました。
単に手帳が欲しいから、あるいは手帳が必要だから買う、ということのみではありません。みなさんが「この手帳のある暮らしは、自分にとって今よりもっと素敵になるのではないか」という心持ちを望んで、売り場へ買いに行ってくださっていると思います。
『ONE PIECE』と「ほぼ日手帳」のコラボでは、『ONE PIECE』の登場人物たちと一緒に暮らすような体験が得られます。お客さまは、これを365日持ち歩くことで自分も『ONE PIECE』の世界で暮らせるような楽しさが得られる、という心持ちで、「ほぼ日手帳」を買っています。
これまで私たちが発売してきた商品、あるいはイベントは、みんなそのような側面があります。これがないと生きていけないというようなものは、基本的には作っていません。発売した食品にしても、なければ困るものではありません。
日々の暮らしが豊かになり、自分というものがより耕されて、豊かなカルチャーの中で生活できるようになる、というような商品を発売しています。そのような意味では、基本的には連続ドラマや映画、本を作っている会社と間接的に競合しています。そのような仕事の仕方をしてきたということを、コロナ禍において、あらためて本気で見直す必要があると思いました。
小売業であれば、小売業としての顧客へのサービスについてや、「Amazon」が商品を当日に発送していることなどを考えます。大企業同士が小売業として競争に勝ち抜くために、大きなコストをかけ、リスクを覚悟しながら競争していくのです。
昔、航空会社同士がサービスに命をかけ、両方がもうやめようという展開になったことを覚えています。私も広告の仕事をしている間、もっとも見てきたのは小売業の競争でした。デパートの隆盛と衰退の歴史も見てきました。その後のスーパーマーケットの時代、コンビニの時代、専門店の時代など、さまざまなものを見てきました。
これらは業態そのものが、コピーができるものです。つまり店のデザインを変えたり、買い物スタイルを変えたりすることもできるのですが、競合他社がすぐに追いついてしまうような競争であり、その舞台で競争するのが小売業の宿命であるという側面があります。
あのドラマがあの局で放送されているからこのチャンネルを見るということと比べると、ずいぶんと身を切るような競争です。しかも、誰が喜ぶというわけでもないのにもかかわらず、競争上、仕方なくそこにコストをかけていくという、小売業の呪縛から解放されないまま、競争力を高めていくということを行っています。
私たちのところにも、さまざまな助言やおすすめの商品の提案が舞い込みます。その大部分が、「他の会社に勝つには、この仕組みを入れるとよい」などといった、私たちを小売業と捉えてセールスの対象としたものです。
提案されるべきなのは、その分野ではないと感じます。根本的に私たちは、コンテンツを探して、コンテンツを生み出し、そのコンテンツを増殖、増幅させることを行っています。それゆえに、ほぼ日が支持されています。そのようにご説明しつつも、私たちも本気でそう信じていなかったのかもしれません。
売上を作るのは、やはり小売業としての売上です。輪郭線で書くとすべて「手帳は去年に比べてどこで何部売れたか」というようなかたちになり、小売業の地図ができてしまいます。しかし実際のところ、企業の方々は「ほぼ日と何かできませんか?」という言い方でアプローチします。
私たちに力がなく、ご要望にはお応えできないこともあります。開発期間として、しばらく一緒にトライしてみましょう、ということもあります。
お客さまは、ほぼ日そのものを知らなくても、誰かが「ほぼ日手帳」を使っているのを見て、いいなと思って買うことがあります。その後、他の製品も知るようになったというような展開は、モノそのものではなく、モノに込められたコンテンツの魅力によるものです。これは私たちとの接点ができているということです。
BtoBとBtoCのいずれにおいても、私たちはコンテンツで人々と対面し、関係を築いてきています。将来的にそれをもっと徹底的に行い、それが私たちの「めしのたね」だと言えるように展開していきます。
それはコストがかかることではありません。上場の時にお伝えしたように、工場を建てるなどということよりは、人と少しの道具や仕組みのようなものが手に入れば、伸ばしていける部分です。
原料として小麦をたくさん買うわけでもないし、金型が必要なわけでもありません。人間の意識と修練、発想がどのように変わっていくかということが、私たちの未来の大きな基礎になると考えています。
コロナ禍で、このようなことに本気で取り組もうと思うことができました。その意味でコロナ禍は明日明後日の売上や人気にとらわれず、私たち自身の基礎体力のようなものをつけていく非常によい時期でした。
東北や北海道の高校野球の選手たちが「雪の季節にできることは何だろう?」と考えるのと同じように、大勢の人と直接会えなくても、何ができるかということを考えます。私たち自身の組織、チームの基礎体力や発想の方法をどんどん磨いていくことだと考えます。このようなことに努力の重心を置き、判断して決めることができました。
とてもありがたいことに、私たちの作ってきたコンテンツが形になり、小売の売上として利益を出してくれています。それが私たちの方向転換を支えてくれる基礎になっています。しかし重要なのは、よいことを考えるチームや、どのような切り口でも新しい発想が出てくるチームです。
今までであればデザイン会社や広告代理店などに、そのようなものがあると思われていたかもしれません。私たちは代理店ではありませんが、すばらしいデザインや企画のプロダクションであると同時に、自分たちがクライアントだったわけです。
アイデアに自らコストをかけて商品にして、製造、販売し利益が得られるという構図をとってきました。おおもとはアイデアやクリエイティブ、コンテンツという発想の部分です。そのような部分の力を、どのようにつけていくべきか考えます。
今は出版社やテレビ局などがコンテンツを生み出す力は非常に弱くなっています。では、どこがそのようなものを開発しているのでしょうか? 今は漫画の編集者や、一部の元気のよいビジネス書の編集者、あるいは連続テレビドラマを作っているフリーランスの人を含めてのコラボの集合体のようなものが、コンテンツを生み出しているのだと思います。
自らの予算で本気でクリエイティブな集団で何かを作っていくこと、あるいはクリエイティブな要素が足りないと自覚している別の企業と組むことで、実行力と掛け算になって何かができるようになるということは、「ほぼ日刊イトイ新聞」に取り組む時からできればよいと思っていたことです。その体制が本気で組めるようになると思ったのが、この2年間でした。
それを行うための、マシンが必要だと考えました。マシンというと前時代的ですが、私たちにとってのクリエイティブの工場が必要だということです。それは何かと言いますと、もともとは「ほぼ日刊イトイ新聞」という、新聞という名を付けたホームページでした。
しかし、そこでできることの範囲や深度、広さに対する限界として「だいたい、こんなものかな」というのがありました。言ってしまえば世間からも高をくくられ、私たち自身も「これ以上はここでは伸ばせないな」と感じていたのです。
そこで、ライブでクリエイティブやお店の集合体を人の前にデビューさせたらどうなるかというテストケースとして開催したのが、「生活のたのしみ展」です。おおまかに言いますと見本市です。見本市ですが、商品を買うというかたちで、大企業に限らず、10個しか作らない手作りのものから、万単位のポテトチップスまで、1つの場所で楽しめる企画です。
作った人や買う人が、同じように参加するというかたちで、それぞれのクリエイティブをやり取りできるという場所を作りました。「これは芽があるぞ」と見た人たちが、「自分たちとどのように組みましょうか?」ということを申し込んでくださっています。
あるいは、まったく違う角度からのものもあります。犬や猫を飼っている人たちや、犬や猫を自分たちの家族だと思っている人たちが、自分たちのコミュニティをどのように作っていき、どのようなものが足りないかということを考え、「ドコノコ」というアプリを作りました。
これはすべての犬や猫の住民票のようなものができれば、個々の犬や猫がさらに大事にされる世の中がくるのではないかという、社会活動を兼ねているようなものです。
このように、そこまで大きな規模ではなくても、「ほぼ日刊イトイ新聞」という読み物をみなさまに読んでもらうことで、自分たちのコミュニティを広げるだけではなく、いろいろなかたちでの活動を何度もトライしてきています。
「ほぼ日手帳」も同様です。コンテンツのかたまりである「商品」が、手帳という形をとっているのです。同時にその手帳を使ってくださっているみなさま自身のコンテンツがそこに乗っていくわけです。
そして、それが1冊の本のような意味を持って、自分の家の本棚に去年の分、今年の分と溜まっていきます。そこにコンテンツが集合したり、コンテンツの上にコンテンツが乗ったり、展覧会に行ったときのチケットが挟まったりすることで、その展覧会というコンテンツがつながりを持ったりします。
言い表すのが難しいのですが、このようにしてコンテンツの複雑形のようなものができるわけです。意識的ではないですが、実験的にそのようなものを私たちが意欲的に作っていくことで、喜ばれることがどのように広がっていくかということのおおよその見当はついていました。
しかし、まだ足りないと感じ、「よいコンテンツを持っている人たちがここに集まれば、なにかが生まれるのではないか」と思ってもらえるような「市」を考えるようになりました。楽市楽座のような「市」です。「『生活のたのしみ展』が見本市のようなもの」と先ほどお話ししましたが、このような思いがかたちになったものです。
また、クリエイティブやコンテンツの「市」のようなものを、私たちのイニシアティブで作ることができないかと思い、始まったのが「ほぼ日の學校」です。自分たちがコンテンツを生まなくては作れないし、仕入れなけば作れないし、配らなければ作れないという意味で、このかたちが一番、自分たちらしさを引き出せると思いました。
自分たちの今現在のキャパシティを超えていますが、少しずつ増やしていける一番の敷地が、「ほぼ日の學校」というかたちでできました。作り始められたという言い方のほうが、謙虚でよいのかもしれません。
仕組みの大元はできたと思いましたが、メンバーの出身が出版や広告関連の会社であったため、自分たちがもともと得意ではなかった映像の部分が足りていませんでした。しかし、今は通信と映像の部分がより必要とされています。
そこで上場した時から、通信と映像の部分を少しずつ強めていきました。その部分でも「ほぼ日に任せておけば、このようなことができるんだよ」となり、「ほぼ日の學校」をきっかけに、私たちの得意ジャンルとして映像の部分がさらに1つ増えることになりました。
また、私たちはもともとフラットな組織ですが、入ってきたばかりの新鮮なインターンや新人と、私のようなベテランの人たちが、同じような高さから自由に発想をやり取りできる場所が欲しかったのです。それが仕事としてではなく、「ほぼ日の學校」を中心に企画を練り上げていく会議が作られるようになったわけです。
また、経理の人から総務の人までを含めて全員が自由に参加できる「ほぼ日の道場」というものを、今は毎週行っています。今までは、私が今何を考えているかを共有してもらうため、週に1回「ほぼ日の水曜ミーティング」をしていました。
そのミーティングのほかに、「ほぼ日の道場」が毎週開かれ、インターン中の人からベテランの人たちまでが、ある企画について「もっとこのようにしたらよいのではないか」「このように紹介したらよいのではないか」「キャスティングをこう変えたらよいのではないか」などと練っています。
メンバーはみんなユーザーでもある人たちですので、ユーザー目線からも「ほぼ日の學校」で企画の乱取りを続けていくようにして作り上げています。これが始めて1年になりますが、非常に面白いことになっています。
「ほぼ日の學校」の企画を考えるというかたちで、なんでもありになりました。それが、「ほぼ日刊イトイ新聞」の企画になったり、あるいはまったく違うところで、社会貢献の発想の材料になったりしています。
コンテンツを作るプロセスである生み出す、仕入れる、伝える、盛り上げるということの練習が、外に出られるチャンスが減ったこの2年間に、いろいろなことで非常に高まりました。このあたりのことはどうしても数字に表れない部分です。しかし、会社としての力がついたというのが私の実感です。
また、このような場所で「糸井さんの引退後は?」という質問を必ず受けるのですが、そのことについては当然、私自身も考えているわけです。私がいないところで、どのくらいの発想が生まれ、どのくらいのアイデアがものになっていくかということが、この会社の体つきを作るのだと思います。
つまり筋肉になると思うのです。その部分をどのように作っていくかということと、自分の役割をどのように変化させていくかということを、一緒に考えていくことが必要だと思っています。
今は、代表取締役というかたちでみなさまの前に現れていますが、会社で私が一番稼ぎに貢献しているのは、やはり発想の部分です。代表取締役の部分が稼いでいるというより、事実上は「糸井重里」というクリエイティブが稼いでいる部分が一番大きいわけです。
それをどのように増やしていくかについて、いつかきちんと取り組まなくてはならないと思っていました。新型コロナウイルス感染症のお陰で、その機会がかなり前倒しで訪れ、取り組むことができるようになりました。
長年ファンとして見てくださる方などは感じているようで、「『ほぼ日刊イトイ新聞』がちょっと変わりましたね」と言ってもらえるようになりました。それは、「ほぼ日の學校」のための企画や考え方からクリエイティブが増えていき、さらに「ほぼ日の學校」の中にはビジネスの要素の学びも入っているからだと思います。
そこでさらに学びたいビジネスの要素を、自分たちが学べるようになっていることや、いろいろな要素が掛け算となり、ずいぶん力がつきました。
このようなことを発表しても「では、それを数字で表してください」と言われると困ってしまうのです。今日はこの場であえてそのような話をしてみようと思いました。「そんなの意味ないよ」と言われたら申し訳ないです。
これはなにかのかたちで、例えば「ほぼ日の學校」の成果として稼いでみせることでしか、証明できないのだと思います。稼いでみせることで必ず、「あのとき言っていたことは、こういうことになったんだね」ということが見えてくると思います。
今回の「ほぼ日手帳」のラインナップや今のコラボレーション商品、あるいは新商品などをよく見ていただくとわかると思います。「ほぼ日手帳HON」という新商品が12月に発売されますが、これはまさに小売業についての危機意識が生み出したものです。
今一番人気のお店のジャンルは、生活雑貨からファッションにかわり、その時代がけっこう長く続きました。例えば、昔であれば紀伊國屋書店で待ち合わせていた若い男の子と女の子が、その後「LOFTで待ち合わせね」という時代がしばらく続いたのです。
生活を彩る楽しいものが、若い人たちの言葉にならないイデオロギーとして広まっていたのですが、徐々に景気も悪くなり、そこに対する期待や魅力のようなものが、相対的に下がっていきました。
そのときに、その売り場が「これからどんどんよくなるぞ」「新しいお店がどんどんできていくぞ」とは考えられなくなりました。もちろん、一定の役割は果たしています。そば屋やラーメン屋がなくならないのと同じように、生活雑貨のお店が簡単になくなるものではありません。
そこでのがんばり方はあるのだと思います。ただし、そこにすべての重心をかけて、「ほぼ日」のインターネット上での販売と、生活雑貨のお店で扱っている「ほぼ日手帳」というかたちのみでの時代が、そのまま続いていくとは思えないのです。
そのため、販路を問わない、いわば店を問わないような私たちのクリエイティブの広げ方で、「何屋だよ」と言えなくてもこれからは成り立つような「ほぼ日手帳」を作ろうと思い、「ほぼ日手帳HON」が生まれました。
説明がたくさんいらないタイプの「ほぼ日手帳」が、おそらくこれからもう1つの軸になっていくのだと思っています。このようなことも、手帳のチームが成長して、どうしたらよいかを考え、たくさんのクリエイティブを乗せたことで、「ほぼ日手帳HON」のデビューとなりました。
また、12月の「ほぼ日手帳HON」発売に先駆けて、「前橋BOOK FES」という本のお祭りをします。ここから100キロメートル離れた群馬県前橋市で、私個人がなかばボランティアとして始める企画です。
それは家にあるいらなくなった本や、読まなくなった本を持ち寄って、誰かに無料であげるというお祭りです。経済のジャンルでは、贈与中心の経済がさらに強い意味を持つと言われており、まさしく贈与のためにかけるコストをみんなでかけます。
ある場所に買った本が流れて、それを置いたり仕掛けたりするためには、すべてお金がかかります。例えば、本を送るにもお金がかかりますが、貰う人たちが集まってくることにより、「本っていいものだな」ということが循環していくと思うのです。
本がよいとわかることのほうが、新刊や今ある本にとっても刺激になるのではないかという発想から開催するお祭りです。10月29日と30日に開催するので、もしよろしければ覚えておいてくださるとありがたいです。
名前に「HON」がつくということもあり、そこで「ほぼ日手帳HON」の発表会をします。ほぼ日としてそこにブースを出し、「ほぼ日手帳」の一番新しい商品として発表会をします。このようなことも、「手帳ってなんだろう?」ということだけを考え続けていたら、なかなかできなかった発想です。
「小売というビジネスがどのようになっていくか?」「あるいはその手帳を使っている方々が、どのようにその手帳や作り手の私たちと親しんでくださっているのか?」「私たちのクリエイティブがどのようにものの中に乗せられて、その影響力を発揮していくのか?」そのようなことを複合的に考えなければ、成り立たないものなのです。
そのあたりを若いチームが、意欲的に前に進めているということも、10年前には考えられませんでした。このような活きのよさで、ずいぶん強いチームになってきたことがわかると思います。
そして、この場で以前みなさまにお集まりのところにご披露した「ほぼ日のアースボール」は、「妙なおもちゃだな」と当初は思われたかもしれませんが、世界に認識されはじめました。とうとう今度は3つ目の「ほぼ日のアースボール」がデビューし、次もまた、さらにアクティブな方法を考えています。
「地球儀を売ろう」というのではなく、「地球儀のある暮らしを私たちがクリエイティブしていこう」というかたちで進めてきたことが、このように実を結びかけているのだと思います。「ほぼ日のアースボール」について、数字的にも見えてきました。本当の主力商品になるかどうかは、まだ先のことだと思います。
ほぼ日は手帳だけではなく、これからのクリエイティブやコンテンツを生かした会社であり、コンテンツを意欲的に生み出せる会社であるという自己紹介くらいになる時代が、やっとやってきたと考えています。
長くなりましたが、今日は「それで、株価は上がるの?」というお話に、直接結びつくかどうかはわかりません。株価については、率直に言いますと、悔しいです。「私たちのしていることや私たちに見えているものが、まだ通じない仕組みなのだな」と思うと、代表の身としては悔しい思いです。
もう1つは「まだ力がないのだ」と思っています。選挙で例えると、票が入らないのと同じことだと思います。力がないということはわかりますが、私たちに投票してくださる方を中心に、次の時代に向けて着実に歩んでいるのだという自信を失わずに、この後の活動を迷いなく進んでいこうと考えています。
おまけのような話ばかりになりましたが、以上で私の話を終わりとさせていただきます。
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