コラム【新潮流2.0】:教養としての数学(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)

2022年6月8日 09:32

印刷

記事提供元:フィスコ

*09:32JST コラム【新潮流2.0】:教養としての数学(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)
◆経済産業省がまとめた「数理資本主義の時代」というペーパーは以下のような記述から始まる。<現在、世界では、「第四次産業革命」が進行中であると言われている。この第四次産業革命を主導し、さらにその限界すら超えて先へと進むために、どうしても欠かすことのできない科学が、三つある。それは、第一に数学、第二に数学、そして第三に数学である!>

◆これを僕に教えてくれたのは、「教養としての『数学I・A』」という書籍である。同書は日本の国際競争力の衰退と日本の学校教育で数学が重視されなくなった時期のシンクロを指摘している。日本の国力低下は経産省の言う「第四次産業革命」に乗り遅れてしまったことが理由だが、その背景には数学教育の劣化があるという。

◆実際のところはどうか、僕にはわからない。しかし、勉強するなら数学がいい。僕が心底から尊敬しているO女史は、今でも脳トレと思って数IIICの問題を解くと言っている。数IAでもお手上げの僕からすると、「神」のようである。とにかく数学がいい。株式投資やビジネスでの成功には数学的思考が役に立つ。

◆先日、ストラテジーレポートについてこんなご指摘をいただいた。
<「S&P500と理論値の推移」のグラフについて、普通、等間隔で示された対数目盛は、数値が1あがる毎に実数は1桁(10倍)増大することを意味しますので、このグラフでは、1800年代後半から2018年までにS&P500の株価は1千万倍以上上昇したことになります。この対数グラフの縦軸目盛の数値に問題があることは明らかです。>

◆このコメントのミソは「普通、等間隔で示された対数目盛は...」の「普通」というところである。普通はそうだが、僕がレポートで使った対数の目盛りは「普通」ではない。普通用いられる対数の「底」は10であり、それを常用対数という。常に用いられる、つまり普通に使われる対数ということだ。記号はlogである。それに対して僕が使っているのはネイピア数(e)という無理数を底とする自然対数(ln)である。経済学では自然対数を使うことが多いのである。詳細な理由は割愛するが、自然対数を使ったほうが何かと便利だからである。

◆それにしても、対数目盛の不自然さをご指摘くださった読者の方の教養の高さに感服する。「このグラフでは1千万倍以上上昇したことになるから軸目盛に問題があるのは明らかだ」とは、なかなか見抜けない。流石です。悪いのは「対数」としか表記しなかった僕である。きちんと「自然対数」とするべきであった。正しい表記を心がけるのは、「教養」以前に「常識」の問題である。謹んで訂正いたします。


マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆
(出所:6/6配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)《FA》

関連記事