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ガソリン等に対する補助金は、ポピュリズムの産物ではないのかという疑問
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旧ソ連のような社会主義経済圏では、物品の価格が国家によって統制されていたため、様々な歪みが表面化したことが知られている。対する自由主義経済圏では、価格形成の基本は需要と供給のバランスである。市場に供給される量が、需要される量を上回ると供給過剰となり価格は低下する。逆に需要が供給を上回ると、品不足感が高まり価格は上昇する。自由経済体制の中では価格形成は、市場のメカニズムに任せるのが基本だ。
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もちろん自由な経済圏にでも、異例な事態は起こり得る。特定の生活必需品の価格を引き上げるような突発的な事態が発生した場合には、社会の混乱を回避するため、一時的な政策として商品の価格を据え置くための財政出動をすることは考え得る。だが期間や補助金額の上限には、一定の枠が設定されていることが望ましい。
政府が1月27日から始めたガソリン、軽油、灯油、重油(4月28日からは航空機燃料も追加)の価格を据え置くための補助金に、こうした歯止めはあるのだろうか。
ガソリン等の価格を抑制する補助金は、1リットル当たり5円を上限として1月からスタートした。21年度の補正予算では、エネルギー対策特別会計から確保された893憶円がその財源となった。エネルギー対策特別会計の原資は、ガソリンなどの化石燃料に課税された石油石炭税だ。その税金を支払った人たちが回り回って補助金の恩恵を受けるという、一種の納得性があった。
それが、翌月の2月にはロシアのウクライナ侵攻が契機となって、原油の国際価格が更に上昇した。この時点でエネルギー対策特別会計から確保された893憶円は使い切っていたため、3月10日になって一般会計を財源とする補助金が用意され、1リットル当たりの補助金は5倍の25円にアップ。
その補助金は1カ月半後の4月28日には当初比で7倍となる35円に増額された。消費者が負担する金額に目途があるので、ガソリン等の市場価格が上昇すると負担幅は拡大する仕組みだ。財源には赤字国債が充てられることになるから、今回の大盤振る舞いを負担するのは、将来世代と言うことになる。
ある商品の価格が上がると、使用を控えたり代替の方法を工夫するなどして、需要を抑えようとする力が働く。自動車等の燃料に限って考えると、一般の人は遠出を控えたり外出回数を減らしたりといった出来る限りを工夫をする。需要が減少するにつれて、供給とのバランスがとれるようになると値上げの勢いは減衰し、供給が需要を上回ると価格は低下に向かう。現在のガソリン補助金は、需要の勢いを放置して補助金で補填しているだけなので、需給のメカニズムは働かない。
現在の原油価格の上昇は、原油価格の上昇要因や、新興国による需要増という構造的な理由に加えて、ロシアのウクライナ侵攻が輪を掛けた問題のため、終了時期がいつになるのか見通せる人はいない。CO2削減による脱炭素社会の実現という世界の趨勢ともリンクしない。加えて将来世代に負担を先送りしている面すら感じられる。ガソリン等への補助金は、社会の実態から国民の目をそらす政策になってしまったようである。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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