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習主席のメンツか 国民の日常生活回復か「ゼロコロナ」で中国が陥った選択不能の二者択一!
中国では今も「動態清零」(ダイナミック・ゼロコロナ)政策が継続している。全体主義の国であるだけに、その対策はストレートで、過酷だ。ロックダウンが宣言されると、自宅を出ること自体に相当の縛りが掛かる。通院やPCR検査などの事情でなければ外出できないから、実質的には自宅軟禁状態に近いと言う。
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利用が見込めない公共交通機関は運休になり、一般車両が道路を通行すること自体が許されない。原則、学校や企業、スーパーなども閉鎖されているので、外出しても何もできないうえ、不審人物(?)としてチェックされる危険性があると思えば、ぶらぶら外出する人はいない。
上海市では、3月の初旬までは感染者が発生した団地ごとの封鎖に止まっていたが、3月中旬になると封鎖対象が地区ごとに広がった。3月下旬に市の半分が対象となったと思ったら、4月には市内全域がロックダウンとなった。4月中旬には一部の地域で限定的に外出が許可されるようになったようだが、今後の推移は予断を許さない。
コロナ対策の遅れが、責任者の失態として処分されることを恐れるあまりか、最近はロックダウンが頻繁に行われるようになった。河北省沙河市では7日、無症状の感染者が1人確認されたことがキッカケでロックダウンが行われ、安徽省蕪湖市でも発熱外来を受診した市民1人が、PCR検査で陽性判定されたことで17日からロックダウンとなった。河北省沙河市では市民全員にPCR検査が合計7回も実施されたが、続く感染者は発見できなかった。
大都市の上海市から地方の都市まで、17日時点では中国全体で22の都市や地方がロックダウン状態で、合計で6000万人を超える市民が影響を受けている伝えられている。
厳しい規制があったとしても、不自由な生活が報われるような目覚ましい効果があったり、解除時期が見えているなら我慢する気持ちも続くだろう。だがロックダウンしているにも拘らず感染者が増加して、いつ解除されるのか分からないという状態では、モチベーションの維持が困難になる人が出てきても止むを得まい。
突然、ロックダウンが始まって外出を禁止された場合、自宅に食材のストックを抱えている人と在庫を持たない人とでは、切迫する度合いに大きな差があることは容易に想像できる。簡単に言うと、食べるものがなくなって飢える人が出てくる可能性があるということだ。中国が世界の覇権をうかがっている2022年のこの時期に、中国国内で「飢える」人が出現すると考えた人はいないだろう。
当局が食料品などの配布を行うこともあるようだが、家族の構成人数に対する配慮はないので、大家族が深刻な状況に追い込まれている。2500万人という上海市の人口を考えると、満遍なく平等に物資を届けるという行為自体に大きな困難が伴うことは明らかだ。
実際、ロックダウンの効果が目に見えないことや、無症状の感染者が8割を占めている実態を考えると、対策と効果が引き合わないことは間違いないが、国家指導者が言い出した国の方針は殊更忠実に実行されるお国柄もある。
北京市では26日から、週3回のPCR検査が市内のほぼ全域に拡大された。その決定をする前日25日の新規感染者は33人だった。10日前の16日に、北京市で新型コロナ対策の最高責任者だった于魯明(う・ろめい)氏が、「厳重な紀律法律違反の嫌疑により」失脚したことが伝えられた。具体的な嫌疑は明らかにされていないが、その後PCR検査の対象地域が拡大されたこととの関連を深読みして、地方政府の新型コロナ対策責任者がパニックに陥ったとしても不思議はない。
中国の各地区で実施されているロックダウンは、解除するキッカケが掴めないまま時間が経過している。僅か1人の感染が確認されただけでロックダウンをスタートさせていたら、正真正銘の「ゼロ」になるまで解除の大義名分はない。ロックダウンを解除したのちに感染が拡大したら、責任を追及されることは間違いないから、ロックダウンの解除自体が大きなハードルになっている。
今秋の第20回中国共産党大会に於いて、異例の「3期目」続投を目論んでいるとされる習近平国家主席が指示したとされるのが「ゼロコロナ」政策であることに、問題の根本がある。大会開催を目前にした時期に、「ゼロコロナ」の失敗を認めるような政策変更は、習氏の権威を大いに傷つける悪夢以外の何物でもない。政策変更がなければ、新型コロナに対する過剰反応は修正されず、ロックダウンが徐々に広がり続ける。
このままでは、重症化リスクの低い新型コロナのために国全体がロックダウンに陥るという、漫画のような事態になりかねない。
中国は、習氏のメンツを守るべきか、国民の日常生活を守るべきかという、重大な岐路に立っている。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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