宇宙観測技術を応用し生体内の精密画像取得に成功 東大やJAXAら

2022年4月7日 07:24

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超新星残骸カシオペア A の観測データを用いたスペクトルフィットの概念図(左画像 Credit: NASA/CXC/SAO, 右図 Credit: Kavli IPMU) 

超新星残骸カシオペア A の観測データを用いたスペクトルフィットの概念図(左画像 Credit: NASA/CXC/SAO, 右図 Credit: Kavli IPMU) [写真拡大]

 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU) は5日、宇宙観測目的で開発されたテルル化カドミウム(CdTe)半導体の撮像検出器を、全く分野の異なる小動物生体内における分子イメージングに応用して、従来得ることが非常に困難だった精密な画像信号を得ることに成功したと発表した。

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 研究には他に、国立がん研究センター先端医療開発センター、理化学研究所、JAXA宇宙科学研究所らの研究者が参加している。

 テルル化カドミウム半導体の撮像検出器は、JAXA宇宙科学研究所が中心となり、開発を進めてきたものだ。X線天文衛星ひとみ (ASTRO-H) で宇宙用観測装置として実用化された実績があり、今回の研究ではこれをベースに撮像装置開発が進められた。

 従来細胞内部の状態を観察するには、蛍光物質を投与して、蛍光顕微鏡で内部の分子状態の撮像を行っていた。この方法では、細胞を生体から取り出しての撮像は可能だが、生体内では蛍光の大部分が組織に吸収され、生体内での分子状態の撮像は困難であった。

 このため複数の放射性元素を生体内に投与して、それらが発する生体内での透過性が高い低エネルギー放射線を頼りに分子状態を把握する技術が考案されていた。だが分解能や画像ノイズの問題があり、期待通りの成果が得られていなかったという。

 今回開発された技術では、テルル化カドミウム半導体検出器を用いた撮像装置の開発に加えて、フィッティングと呼ばれる超新星残骸などの天体観測データの解析で用いられるスペクトル解析方法を適用。生体内部の様々な分子の動きを正確に捉えることに成功している。

 テルル化カドミウム半導体は、低エネルギー放射線の分解能に優れ、正確な生体画像信号が得られる。この生体画像信号を複数の放射線スペクトル信号の合算結果として捉え、その情報から各放射線スペクトル構成要素を関数計算的に分離していく(これを研究者らはフィッティングと称している)ことで、どの分子がどんな動きをしているのかを正確に捉えられるようになった。

 この技術は小動物生体細胞の観察にとどまらず、例えば人体に応用して、生体内にある癌細胞の位置を正確に特定し、そこだけを確実に治療するといったような画期的な医療技術に発展させられる可能性も秘めているという。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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