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SMBC日興の相場操縦事件に感じる、大きな違和感! 何故「通常業務」と主張する?
続報が続くSMBC日興証券の、相場操縦事件に感じる違和感が拭えなくなって来た。
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再三報じられている事件なので、詳細を記載することは控える。概要は大量の株式の売却依頼を受けた際、当該株式が値崩れしないように、SMBC日興の資金で買い支えていたことが、証券取引法の相場操縦に該当する疑いがあるということだ。
当初報道された時から、他の証券会社職員の「何でそんなことをやるのか信じられない」等々の感想が伝わり、事件の特異性がクローズアップされていた。何と言っても、当初逮捕された4人の役職員は関係法令を熟知した(筈の)証券業務のプロであり、違法行為の知識は充分持ち合わせていたにも拘らず、当初から「通常業務としてやっていた」との認識を変えていないと言う。
昨年11月に証券取引等監視委員会の強制調査で指摘を受け、社内でも「証取委からの指摘に留意すること」という通知が発出されていた。それでも当該行為が日常的に行われていたこと等、法を法とも思わない無法集団の如き振る舞いが行われていたことになる。
だがSMBC日興は三井住友HGを構成する企業の一角で、何よりも信用を重んじる銀行のグループ企業である。そんな企業が指摘を受けた後も、何故「危ない橋を渡り続け、逮捕されても”通常業務”と開き直っている」のかという違和感だ。
今回話題になった「ブロックオファー」(BO)取引自体の取り組みスタンスも、SMBC日興と他の証券会社とでは大いに違いがある。
(1)投資家募集期間が、SMBC日興では1日だったのに、他社では4~5日と設定されていた。
(2)自己資金での取引を、SMBC日興ではBO株の対象も売買していたが、他社では対象株の取引は規制されていた。
(3)BO株の情報を、SMBC日興では自己売買部門と営業部門が共有に対し、他社では限定されていた。
(4)売買審査を、SMBC日興では不審取引が検知されても是正されず、他社で不審取引が検知された場合は取引が中止されていた。
同一取引でありながら、SMBC日興と他社とではこれだけ取扱いが違っていたことは、相場操縦に対する認識が根本的に違っていたと考えざるを得ない。
SMBC日興で業務として行われていたBO取引を、相場操縦と断定できるのかということだ。
相場操縦に関する禁止規定をおさらいすると、「取引の誘因を目的として、当該有価証券の売買が盛んに行われていると誤解させるために、有価証券売買やその申込み、委託又は受託等をする」ことである。「取引の誘引を目的」としていなければ、相場操縦罪は成立しないところにポイントがある。
最高裁判例によると、「取引の誘引目的」とは「人為的な捜査によって相場を変動させながら、投資者には自然な需給関係であると誤認させ、有価証券市場の売買取引に誘引する目的」である。
SMBC日興の役職員は、株価の値下がりを回避するため「買い支えていただけ」だから、相場操縦の要件を満たしているとは言い難いので、証取委の指摘にも検察の取調べにも「通常業務だった」と主張しているのではないか。言ってみれば、他社の対応が相場操縦をやや過剰反応的に受け止め、SMBC日興はある種厳密な法解釈の上で業務を行っていたことになるのではないか、という疑問が湧いて来た。
「相場を固定し、安定させることが目的」だったと解釈すれば、安定操作取引(159条3項)に抵触すると考えた方が妥当な事案という判断が成り立つ。安定操作取引は相場操縦の一類型と考えられているが、「上限価格」と「下限価格」を設定して、株価をその間に納まるように目論んだ場合であり、「下限価格」を設定しない買い支えは、安定操作取引の構成要件すらも満たしていないことになるのではないか。
SMBC日興の役職員がこんな解釈のもとに日々の業務に当たっていたのであれば、犯罪行為を追求する検察とのすれ違いが一向に解消されないのもむべなるかなである。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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