「水素エンジンへの投資」は当て外れ?電力市場で遅れをとる日本企業が打つべき「究極の解決策」とは(2)

2022年2月10日 17:29

印刷

記事提供元:フィスコ


*17:29JST 「水素エンジンへの投資」は当て外れ?電力市場で遅れをとる日本企業が打つべき「究極の解決策」とは(2)
本稿は、「「水素エンジンへの投資」は当て外れ?電力市場で遅れをとる日本企業が打つべき「究極の解決策」(1)」の続きである。

●「日本で成功してから海外に行く」ではダメ

白井:インターネットと通信、携帯電話のパラダイムシフトで大きく世の中が変わった一方、日本は大胆にそこを切り開くことができませんでした。世界へのアクセスがすごく飛躍的に高まったのに、日本国内に固執してしまったため、世界から取り残されたイメージがあります。

通信は重要な経済安全保障分野です。ボーダフォンの参入は、なんとなく仲良しグループで守り切ることができました。ところが、いまは携帯電話よりSNSの重要性が高まっています。当初、LINEは韓国企業の手によって開発されました。他のSNSもほとんどがアメリカを始めとする海外のIT企業が提供しています。急速なパラダイムシフトが起こるときには、大きな戦略的な一手を打たないと、すべてを持っていかれる可能性もありそうです。

日本が再生可能エネルギー市場に明るい未来を描くには、中国が金融分野でリープフロッグ型発展を遂げたように、日本もこの分野で将来のビジネスモデルをゼロベースで再考し、かつ、育成する必要があるのでしょう。今後、電力の大きなパラダイムシフトのときに、日本の個々の企業も含めて、どういう手を打つべきなのでしょうか。

伊原:本当に変わるときには、プレーヤーが変わるものです。通信では、アメリカでは昔はAT&Tが巨人でしたが、いまは送電屋です。自分が大手電力の会社の社長であれば、蓄電池の会社を買うとか、自分のいまのテリトリーではないけれど、未来の延長線上にいる人たちを取り込むのが、本来の打ち手でしょう。

再生可能エネルギーのように、グローバルな産業であればあるほど、最初から世界のことを考えてアクションする必要があると思います。これから大きなビジネスを考える場合、日本の国内市場を前提で考えた瞬間にダメでしょう。海外の企業を積極的に買って、まず海外で成功して日本に持ってくるぐらいじゃないといけません。

日本で成功してから海外に持っていくというのは、スピード感、規模感からも、難しいでしょう。これは太陽光発電市場にもあてはまると思います。ドイツの企業は専業メーカーですから、逃げるわけにもいきません。ドイツのマーケットだけで満足できるわけはなく、ヨーロッパ全体に行き、最終的には中国、日本まで来たわけです。

偏見かもしれませんが、シャープや三洋は、自分たちの技術は良いので、多少高くても、日本の人たちはわかってくれるはずというアプローチで開発を進めたと思います。そうすると日本のマーケットすら維持できなくなるのです。

白井:日本人の起業家が日本市場しか対象としないのは、大きな問題ですね。シリコンバレーなどのアメリカのべンチャー企業の投資家説明は、世界のすべての市場を対象としているので、将来の業績は指数関数的に伸びるという説明をします。未上場企業であっても、その事業計画を前提とした企業価値を使って、巨額の資金調達を行うことができます。

日本の同業とは資金調達規模が圧倒的に違うため、結局、彼らがその巨額の資金を使い、結果的には世界の市場を独占することになります。加えて、大学や投資ファンド、エンジェルなどの存在がエコシステムを形成し、ベンチャー企業の成長を有機的に支えています。これが、ここ数十年のアメリカと日本との金融面に裏打ちされた事業競争力の違いです。

伊原:根本的に金額の桁が違う気がします。ベンチャーキャピタルの性格にもよるのでしょうが、いかに失敗しないかを考えるベンチャーキャピタルでは、大負けするのが怖い、1案件に100億なんか張れないということになり、金額は自ずと小さくなってしまいます。小さくしか張らないと小さいリターンしか返ってきませんので、彼ら自身も大きくなりません。日本全体で小さくなっていってしまいます。

日本のように、堅実に、みんなで薄くやっていくというのは、ひとつの選択肢ではあります。ただ、日本の市場が閉じていれば問題ないですが、日本は世界の中に組み込まれていますので、相対的にはどんどん日本の競争力は下がってしまいます。日本の国内だけの論理でやっていっていいという議論ではないのです。日本にはエネルギーも資源も食糧もありませんから。

●エネルギーを「使わないほど良いことがある」仕組みも必要

白井:日本はIT革命で乗り遅れましたが、エネルギー革命でも同じことになりそうです。エネルギー革命で大きな一手が思いつかないのですが、日本企業が優位なポジションを築ける分野はあるのでしょうか。

伊原:それがあったら、みんなやるのでしょうが、そういう戦略的なことを考えるのが日本人は苦手なのかもしれません。ただ、エネルギーを使わない技術には、世界のどの国も飛びつくでしょう。

白井:東日本大震災後は、全国民が省エネを心がけていました。

伊原:国民の善意に頼るというだけでなく、使わなければ使わないほどいいことがあるという仕組みも同時に用意する必要があります。我慢して使わないのは長続きしないでしょうし、それはあるべき姿ではありません。

省エネすれば、新しいエネルギー源をつくったのと効果は一緒です。なんだかんだと言って、再生可能エネルギーだって、設備をつくったりするのに資源を使っています。エネルギーを使わないのであれば、それすら要らないわけです。雇用のことは別にすると、エネルギーの究極のソリューションは使わないことでしょう。

白井:トヨタのカイゼンに代表されるように、日本人は、オペレーションの精度を高め、効率化を推進するのが得意です。海外の人は日本の電車の正確性にびっくりしますし、東大阪とか大田区の中小企業の精緻な職人作業は、日本の競争力だと思います。

しかし、ビッグデータ解析やAIのようなテクノロジーが発達し、製造業の破壊者である3Dプリンタ技術が進展すると、日本人独特の優位性を全部失ってしまうという恐怖心も拭えません。

いまの日本人はダイナミックにビジネスにするのは下手そうです。いい技術やいいアイディアがあったときに、スケールするビジネスモデルに転換することや、巨額の資本調達をするなどが必要です。行政が手を差し伸べるだけでなく、経営者の積極的なマインドが必要ですね。

2時間があっという間で、非常に勉強になりました。ありがとうございました。

伊原:こちらこそ、ありがとうございました。

写真:AP/アフロ

■実業之日本フォーラムの3大特色

実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
(1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う

(2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える

(3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする《TY》

関連記事