新型コロナへの対応混乱は、WHOも! 部署毎で違う見解・・「統一感のなさ」露呈

2022年1月28日 16:26

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 新型コロナウイルスの変異株であるオミクロンは、感染力は強いが重症化リスクが低いことは、常識に近い一般的な認識になっている。その情報は1月4日、国連のオンライン会見で世界保健機関(WHO)新型コロナ突発状況管理支援チームの状況管理者が「オミクロンは深刻な肺炎を誘発するほかの株とは異なり、呼吸器上部を感染させるという症状が多く報告されていて肺炎が少ないので、比較的に症状が軽い。今後の調査は必要だが、良い知らせとなり得る」と述べたことが根拠になっている。

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 これに対して1月6日、WHOのテドロス事務局長は「軽症のウイルスと分類して、油断したまま感染防止策を緩めないで欲しい。圧倒的に多くのオミクロン株の感染例が、世界中で医療機関を逼迫させている。重症化が低くても感染者数が激増すれば死者数は増えるので、軽症という情報に踊らされないで欲しい」と述べた。2日前にWHOから出された情報に対して、当のWHOが軌道修正に及んだような感じだから、締まらないことこの上ない。

 1月11日には、WHO技術諮問グループが「オミクロン株のような新たな変異株に対応するようにワクチンの改良が必要となる可能性がある。従来型のワクチンのブースター接種を繰り返している戦略は、適切でも持続可能でもない。現時点ではオミクロンに特化したワクチンはない。更なる研究が必要なので製薬企業がデータを共有した方が良い」という趣旨の見解を公表。

 だが1週間後には、WHO危機管理統括担当者が、「現在提供されているワクチンはオミクロン株に対して充分な効果があるので、オミクロン株に対応した新たなワクチンを開発する必要は、現時点ではない」と否定した。どうやら、WHOの内部統制やガバナンスは相当傷んでいる印象だ。

 日本は国連のような国際機関をむやみに有り難がる傾向があるが、国際機関には出身国のしがらみや様々な事情が、複雑に投影される傾向が否めないことを認識するべきだろう。中国の武漢で新型コロナウイルスが発見されたばかりの頃、テドロス事務局長が中国の対応を称賛したことにも背景を感じるべきだ。

 テドロス事務局長は12月31日の新年に向けた声明で、「感染抑制に各国が協力し合えば2022年にはパンデミックを終息に持ち込むことが出来るだろう。2022年こそパンデミックを終わらせる年になることに自信を抱いている」と多いなる希望を語った。

 ところが1月18日の記者会見では、同一人物が「このパンデミックは終わりには程遠い」と述べて警戒を緩めないように訴えた。その際、「感染の勢いが低下した地域もある」との見方に対しては「最悪の波が過ぎ去ったとの希望を与えてはいるが、どの国も危機を脱したとは言えない」と一転して慎重な姿勢を強調している。

 表面的には随分矛盾した内容だが、それぞれの発言には周到な前提がある。「各国が協力し合えば」解決は早いと言っているが、現実はイスラエルのように4回目のブースター接種を始める国があったり、アフリカではまだ1度もワクチン接種をしていない人の割合が85%に及ぶという実態がある。WHO内部の不協和音に加えて、取り組み姿勢に国際的な温度差がある以上、想定される結果に大きな幅が生じることを言外に匂わせている。

 尚、WHOの欧州地域事務局長であるハンス・クルーゲ氏は、仏AFP通信の取材に対して「新型コロナウイルスの欧州でのパンデミック(世界的流行)は終わりに近づいたかもしれない」と答えた。「オミクロンが落ち着けば、数週間から数カ月で欧州が集団免疫状態になり」危機が遠のくとの認識だ。

 世界的な危機が取り沙汰されている時期に、一部地域の楽観的な見通しを表明する意味は、WHO内部の複雑な関係をうかがわせるものと言えるだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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