5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (65)

2021年12月24日 08:05

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 一方的に好きな人に食事をご馳走する。家に訪れた娘の彼氏に手土産を渡す。自社の取締役たちのゴルフコンペの幹事を自発的に務める。このように財産や時間といった「自らの犠牲(コスト)」を払って他人に親切な行いをする人がいます(商業上の例では試食やサンプリングがそうです)。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (64)

 このような行いは、何かしらの見返りを求める心理的性質である「互恵性」が働いているのだそうです。他人に何か施した場合に相手からのお返しがあること(返報性の原理)を想定して動いているわけです。ここでの「他人」とは「知り合い」を指します。

 では、電車の中で「見ず知らずの高齢者や体調不良の人」に座席を譲る行為については互恵性は働いていないのでしょうか。行動経済学では、こういった行為も「間接互恵性」といい、人は自分が親切にふるまうと、「それを見た誰か・その評判を知った誰か」から親切を受けられるかもしれないと考える生き物だと論じています。

 たとえば、AさんがBさんに親切行動をすると、その評判を知ったCさんがAさんに利益を与えるという流れ。これは、人の「評判の影響力」を仮定したAさんの戦略です(社内で有能者の評判が広まり、その後、その人に大量の仕事が集中してしまう現象に似ています)。

 困っている人を救う人には2タイプあります。1つは既述の通り、「風が吹けば桶屋が儲かる方式」を常時考えながら助ける人。親切の見返り・返報性という不確かさも疑わず、自主的な親切行動すべてに見返りがあることを打算して他人に親切行動を起こす人です。

 このタイプの人は、自身を戦略的で合理的な人間だと考えているかも知れません。しかし、非合理な利己主義・視野狭窄・迷信行動の極みとも取れます。もし、ビジネスシーンならば、生き抜く戦闘力が実質低いマニュアルワーカー的な人材に見えかねません。一方的な親切心の押し売りは、情報量の乏しいアナログ時代ならともかく今の生活者主導社会にそぐわない、仮説に頼り過ぎたコミュニケーションだと私は強く違和感を覚えます。

 もう1つは、衝動的に人を助ける人。見返りで自身の利得を見積もる「互恵性」とは異なり、他人のために他人を思いやる「利他性」の強い人です。無意識に親切行為といった利他行動を起こし、見返りを求めず、相手の効用が高まることを純粋に喜ぶ。そして、それを自分の喜びとして、自身の効用も高めていくタイプです。このタイプは、前述の返報性原理主義者とは異なり、視座が高いナレッジワーカーに多い気がします。

 今日は、互恵と利他の話をしました。皆さんの職場には、どのタイプが多いですか?

 ※参考文献:「サクッとわかるビジネス教養 行動経済学」

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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