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「サブカル業界で実力をつける中国」にみる、日本が進むべき「新たな道筋」とは(喜田一成氏との対談)(2)
*17:03JST 「サブカル業界で実力をつける中国」にみる、日本が進むべき「新たな道筋」とは(喜田一成氏との対談)(2)
本稿は、「「サブカル業界で実力をつける中国」にみる、日本が進むべき「新たな道筋」とは(喜田一成氏との対談)(1)」の続きである。
■日本で流行しつつある「日本的価値観で作られた中国産ゲーム」
白井:コンテンツ作りの競争という観点から、中国の現状をお聞かせください。
喜田:ビリビリ(bilibili)は、当初、ニコニコ動画のクローンサービスでしたが、ニューヨーク取引所に上場しています。中国の人口は日本の10倍ですので、クローンサービスを作って模倣し、人の数で一気に進めることが日本よりも簡単です。日本で流行ったものが、そのまま中国でもクローンで出ている状況でした。
しかし、最近は変わってきています。中国のブラウザゲームやソーシャルゲームが日本に逆輸入されるようになりました。日本的な価値観で制作された中国産のゲームが日本で大流行したのです。中国語版も日本語版も日本の声優を使って、日本的な文化、日本的な作り方を採用しています。
アズールレーン、原神、アークナイツなどのゲームは、最近、日本で非常に流行っています。売上ランキングの上位のゲームは中国産で、日本のゲームが中国で流行ることは少なくなりました。中国の法規制や水準に合わせることが非常に難しい一方で、中国で日本的な文化(や価値観)で生まれたゲームが日本で流行りつつあるのです。
白井:競争が非対称的なのですね。中国に参入しようと思っても、中国のさまざまな規制があり、参入障壁が高いと感じます。一方、日本やアメリカは開かれた自由主義経済ですので、基本的にはオープンです。中国から日本やアメリカに参入するのは非常に容易であり、いろんな技術や文化の取得も合法的であれば制約はほとんどありません。
2021年7月には、中国のサイバースペース管理局が、100万人以上のユーザーデータを保有する企業は、海外に株式を上場する前に国家安全保障上の審査を受ける必要があると発表しました。
100万人以上を抱える中国のITサービスが海外に上場しようとしたら、個人データが盗まれる可能性があるという理由で、当局の審査が通りません。加えて、2021年10月に施行される海外上場規制では、中国で生成されたデータは外に出すことができなくなります。この非対称性は、コンテンツ戦略にとってマイナスと考えてよいのでしょうか。
喜田:それだけではなく、中国の起業家にとってもマイナスでしょう。彼らも本国での活動が非常に難しくなってきています。今後は、中国資本で作り、日本や韓国に輸出したほうがいいという判断になっていくでしょう。中国発のIPが日本でより普及していくことになるのではないでしょうか。人口が多いですから、中国モデルを重要視しつつも、比率がどんどん海外向けに上がっていく可能性はあるでしょう。ブラウザゲームとかソーシャルゲームで中国企業が儲けて、日本企業が食われていくことが始まりつつあると感じます。
■「中国産への悪いイメージ」はもう古い
白井:過去において、中国が高速鉄道網を中国全土に整備する際に、日本やドイツは技術協力しました。いまや世界で高速鉄道の入札があれば、日本と中国は完全に競合しています。太陽光発電でも同じ構図でしたが、いまや日本は完敗です。サブカル分野においても、そういう構図になりますか。
喜田:彼らは非合法なことはしていないし、筋を通していないわけでもない。技術的な盗作や完全コピーのようなことは少ないです。彼らは彼らの中で、オリジナリティを見つけてきています。日本のコンテンツの文脈は汲みつつも、新たな中国発日本系作品のようなものが生まれています。過去の中国のイメージとは違い、盗作したり、特許を侵害したりはしておらず、実力がついてきて実際に強くなっているのです。
白井:非常に興味深いお話です。発展途上国は、先進国に追いつくまでは早いけれど、先進国に追いついてからはイノベーションで世界をリードする必要があり、そのようなギアチェンジを行えないと、持続的な成長が維持できないと考えられてきました。
加えて、中国の権威主義的な政治体制と社会のシステムのもとでは、イノベーションは起こしにくいと見られています。ところが、いまのお話は、日本に追いついて、かつ、イノベーションを起こし新たなものを生み出している。学びの対象であった日本よりも、優れたゲームをつくることができるようになったということのようです。面白いストーリーを作ることができる能力、技術力を持ったということですよね。
そのイノベーションの力はどこから生まれているのでしょうか。アリババ、テンセント、DiDiなどのテックジャイアントへの当局の制約が、去年からかなり厳しくなっています。これらは、イノベーションの芽を摘むという向きもあります。
また、中国の未成年に対するゲーム時間を、週3時間に制限しました。これは将来的な中国の人材輩出に大きく影を落としそうです。権威主義的な政治が、サブカルやゲーム業界に与えるインパクトはどうでしょうか。
喜田:ゲームは、若年層が多く消費しているという部分がありますので、当局は非常に関心が高いでしょうし、日本よりもかなり批判的です。社会の堕落の原因だと思っている節もあります。
中国でゲームを販売するときには審査が必要ですが、最近、審査が非常に滞っており、しかも審査が厳しくなっています。それをすり抜けるために、ゲームのロビー画面に共産党のスローガンなどを載せて乗り切るゲームなども登場しています。当局の思想がゲームにさりげなくサブリミナルのように入ってきている点は怖くもあります。
先日中国でボーイズラブの小説を書いていた作家は、逮捕され、懲役10年の判決を受けました。同性愛には非常に厳しいものがあります。その点では日本はすごく寛容です。中国のコンテンツホルダーは非常に息苦しく感じると思いますので、最初から中国ではなく、日本で売っていくこともあるでしょう。
■多様性が制限される「ゲーム大国中国」
白井:ゲーム大国の中国は、多様性がどんどんと制限されていく。日本は、この自由を中核に据えて、競争力を高めていく。本来の実力は中国が上回ってきたわけですが、中国のオウンゴールによって、かろうじて日本は生存空間を維持できたと考えるのが妥当ですね。ただし、いまでも「日本大好き」というのがサブカル分野やメタバースでは支配的ですから、その中での日本シェアをできるだけ高めていきたいですね。なにかほかに障害になることはありますか。
喜田:法律だけではありません。例えば最近問題になっているのが、国際カードのVISAやマスターカードなどのクレジットカードが出版物の内容まで口出しをしてきている点です。一昔前の漫画や小説で「〇〇殺人事件」というタイトルのものがあったと思いますが、いまでは「殺人事件」と付けば取り扱わなくなりました。
支配的なプラットフォームが一方的にルールを決めており、それに従わないと削除(バーン)されます。GAFA全体やペイパルでも言えることですが、これは非常に脅威です。
白井:もはや、GAFA、クレジットカード会社、ネットフリックスやペイパルがないと、日本の企業や国民はデジタル上の存在が失われ、実生活にも大きく支障がでてきます。プラットフォーマーのルールが、他国民の生殺与奪権を握っているということですね。
メタバースにおいても、そうなる前に日本は生存空間を確保しておく必要があります。一方で、プラットフォーマーなどの権力を握っている人々の文化やルールを熟知して、バーンされないリスクマネジメントも必要になってきます。
出版事業でコンテンツ輸出していても、思いもよらないようなことでクレームが入り、話が破談になることもあります。中国では、ミステリーは勧善懲悪で、罪を犯した側が逮捕されないミステリーは翻訳出版許可がおりないし、少なくとも映像化は絶対できないという話を聞きました。日本だと、真犯人は別の人だったとか、悪女が生き残ってにやりと笑う、といったような結末は結構ありますが、そういうのはいま、一切認められないようです。これからのビジネスは、他の文化やルールを考慮して、戦略を組み立てる必要があるようです。
一方、デジタル化するまでのいままでの社会は、効率性の観点から少数派を切り捨ててきたわけですが、喜田さんのお話を振り返ると、これからはすべての人が包摂される社会が到来するように感じました。
クリエイターエコノミーやロングテールのコミュニティよって、自分の生き方も認めてもらえる、受け入れてもらえる、受容される社会が現れる。世界中の個と個がつながることにより、新しい産業を生み出したり、イノベーションや成長を牽引したりして、結果として、国益につながっていく。
個人の能力が高く、文化的な魅力が高い日本の、新しい成長の道筋なのかもしれません。本日は長時間にわたり、貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました。
喜田:私も大変刺激になりました。ありがとうございました。
「「サブカル業界で実力をつける中国」にみる、日本が進むべき「新たな道筋」とは(喜田一成氏との対談)(3)」に続く
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