廃タイヤが幽霊漁業でヤドカリを捕食 弘前大の研究

2021年11月7日 18:48

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廃タイヤに移動したヤドカリ(弘前大学の発表資料より参照)

廃タイヤに移動したヤドカリ(弘前大学の発表資料より参照)[写真拡大]

 弘前大学は5日、海洋廃棄された廃タイヤにより、ヤドカリのゴーストフィッシング(幽霊漁業)が起きているとする研究成果を発表した。ヤドカリは、生物の死骸や有機物片を摂食する「海の掃除屋」としての役割を果たしていることから、研究グループは、幽霊漁業の影響分析と対策に乗り出す考えだ。

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 研究は、廃タイヤによる水域生態系へのマイナスの影響を探る目的で実施。野外に実験的に設置した廃タイヤを長期観察し、廃タイヤに捕獲されるヤドカリの種類と個体数の季節変動を追跡する一方、独自に制作した水槽下の行動実験を通じて、タイヤの内側に侵入したヤドカリが外側へ脱出できるか検証した。

 まず陸奥湾沿岸の水深8mの砂泥海底に6基の廃タイヤを設置。タイヤ内側に侵入したヤドカリを月1回採取して調べた結果、タイヤの中に閉じ込められたヤドカリは1年間で約1300匹に上った。採取される個体数は、冬季に増大し、春から初夏にかけて減少する傾向があるものの、平均してタイヤ1基に1日当たり0.58匹のヤドカリが捕獲されていたという。

 他方、水槽内に実験場所を移し、廃タイヤの内外にヤドカリを放して、タイヤの内外への移動を観察したところ、タイヤの内側から外側への脱出は、被験対象のケブカヒメヨコバサミとユビナガホンヤドカリの2種で起こらなかった。これは、タイヤ外側から内側への移動が、5割以上の確率で起きていたのと対照的な事象となった。

 ヤドカリが廃タイヤの存在で幽霊漁業に遭うのは、その生態に理由があるとみられる。藻や生物の遺骸を捕食して生活するヤドカリは、肉食魚やタコなど天敵から逃れるため、サンゴ礁や岩礁といった岩陰などに生息する。こうしたヤドカリの習性が、移動のしにくい廃タイヤに入り込み、幽霊漁業という結果を招くと考えられる。

 CNNの報道によれば、オランダ公開大学の調査から、海洋のマイクロプラスチックに占める割合は最大で10%が廃タイヤとされる。ヤドカリにとって致死性の高い廃タイヤの対策は、極めて重要だ。研究チームは、「廃タイヤは不法投棄に限らず、船体の衝撃吸収材や漁礁として2次利用されていることから、相当量が海洋に供給されている。幽霊漁業防止に向けた対策を講じたい」と話している。(記事:小村海・記事一覧を見る

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