5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (61)

2021年9月29日 16:46

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 前回は、「直感思考のヒューリスティック」と「熟慮・検討する合理的なシステマティック」という2つの思考を使い分けて、人間は生活していると話しました。その続きです。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (60)

 テレビ番組で「コーヒーの飲用効果」の情報を見かけることがあります。たとえば、「1日3杯以上のコーヒーを飲み続けた結果、5人のうち4人の高血圧が改善した!*」といったものですね(*便宜上作成したタイトルで、このデータは存在しません)。

 実際に、「コーヒー 高血圧」でググると、「コーヒーの血圧降下作用」や「コーヒー高血圧誘因説」など関連記事が出てきます。この手の真偽は専門家に任せるとしても、気になる健康情報です。「5人のうち4人の高血圧が改善した」という1情報に振り回されるテレビ視聴者やコーヒーユーザーがいるのも事実です。それは、なぜなのか?

■(63)人間は、自分の情報(インプット、アウトプット)を特別視しがちである

 「5人のうち4人の高血圧が改善した」1例を、「4/5の割合で高血圧が改善した」と、「(たった)5人のうち4人」を「(なんと)4/5(=80%)」というインパクトのある割合に頭中ですり替えてしまうことが「情報に振り回される」原因の1つなのです。

 サンプル数たった5人の結果をさらに都合よく改変し、それを最終的な答えと決めつけてしまうことが、部分的な1情報に振り回されてしまうことになるのです。

 このように「代表的な1例を見て、ものごとを判断してしまう傾向」が人間には確実に存在します。しかし、少なすぎるサンプル数では単なる偶然が生んだ極端な結果でしかなく、とてもコーヒーに降圧効果があるとは言い切れません。

 にもかかわらず、頭中で作り出してしまった4/5(=80%)という割合のインパクトが強いために「間違った思い込み」が生じてしまうのです。このように「サンプル数が少なくて偏った結果が出ている可能性を無視し信じてしまうこと」を「少数の法則」と呼びます。

 このように、自分が得た情報が実は全体の中のほんの一部分であり、尚且つ典型的な(代表的な)情報にもかかわらず、それを見て全体も同様であると結論づける直感的な考え方、代表的な1例が全体を反映していると勘違いさせてしまうケースを「代表性ヒューリスティック」と呼びます。

 人間は無意識に自分のインプット情報を特別視しがちなのかもしれません。それは、アウトプット情報に対してもです。そして、理由を後付けした自分の情報(インプット⇒加工⇒アウトプット)の正当化は安直な御都合主義でしかなく、もし、それが仕事であれば、大きな成果は望めません。

 ※参考文献:「サクッとわかるビジネス教養 行動経済学」

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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