アタッチメント 2022年春夏 - 創設者・熊谷和幸による最後のコレクション

2021年8月11日 08:14

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記事提供元:ファッションプレス

 アタッチメント(ATTACHMENT)の2022年春夏コレクションが発表された。

■熊谷和幸が手がける最後のコレクション

 ブランド創設者である熊谷和幸がデザイナーとして手がける最後のコレクションとなる、アタッチメントの2022年春夏シーズン。ゆったりとしたサイズ感を基調に、都会的なモード感やリラクシングな抜け感を漂わせるウェアを展開する。

■リラックス感あるシルエット

 テーラードジャケットやブルゾンといったベーシックなアイテムは、ストレッチの効いた素材を採用しつつ、ドロップショルダーでリラクシングなサイズ感へ。テーラードジャケットは、フロントに大胆なタックを施し、その間にポケットをあしらうなど、ギミックとフォルムの協奏が際立つ。デニムをはじめとするパンツも、ワイドながらテーパードシルエットに仕上げた。

■自然素材の風合い

 素材には、自然素材も多く採用。シャツにはシルクを使用し、表情豊かなシワ感と上品な光沢感を生みだした。一方、ブルーの発色が鮮やかなブルゾンには、リネンにアセテートを合わせることで艶やかな光沢感を加え、ノスタルジックなムードにフレッシュさをプラスしている。

 また、リネン素材をベースとしたジャケットやパンツは、フロントとスリーブを合皮調に仕上げることで、軽やかながらも素材感のコントラストにより都会的な表情を漂わせた。

■現代アートに着想を得たウェアも

 現代アートから着想を得たウェアも、ミニマルなムードに自由な息吹を吹き込むかのよう。リネン素材のブルゾンやハーフパンツには、戦後アメリカの抽象表現主義の画家、サイ・トゥオンブリーの作品をイメージしたグラフィックをのせて。また、モノトーンのバイカラーをグラデーションで表現したジャカードは杉本博司の作品に着想を得ており、アーカイブピースの再解釈となっている。

■熊谷和幸にインタビュー

 20年以上にわたってアタッチメントのデザイナーを務めてきた熊谷和幸にインタビュー。今季のコレクションの製作や、退任にあたっての思いについて話を伺った。

 ──アタッチメントのデザイナーとして手がける最後のコレクションでした。何を意識して製作されましたか。

コレクションラインであるカズユキ クマガイ(KAZUYUKI KUMAGAI)の要素を抽出しつつも、ゆったりとしたサイズへと作り変えて、今の自分の好きなムードを盛り込んだコレクションになっています。

アタッチメント自体は、近年では都内に店舗を出してきているということもあり、都会で働く男性にとって着やすい、スポーティーでストレッチがきいているビジネスカジュアルスタイルを提案してきました。一方、カズユキ クマガイは比較的モード寄りで、その点でアタッチメントと相反するところがあります。今回のコレクションでは、カズユキクマガイで培ってきたモード感を、アタッチメントにプラスしました。

素材面では、シルクやウール、リネンなどの自然素材を中心に採用して、着心地の良さにこだわっています。働くワーカーのためというより、大人のリラックスした洋服を提案したいという思いがありました。

 ──アーカイブを再解釈したピースもありますね。

はい。僕の作り方には、リサイズしたり、ミックスしたりという「モデル替え」をしていくような側面があるのです。今回は、今までアタッチメントが培ってきたテクニックに、ゆったりとしたフォルムをどのようにして盛り込めるか、という視点で作っています。カットも独特です。

 ──テーラードジャケットも、大胆にタックをとったフォルムが特徴的です。

すごい立体裁断で。そういったギミックが好きで、時代ごとに色々やってきました。とはいえ、20年以上コレクションを発表しているなかで、サイズ感は細身であったり、太くなったり、ちょっと大きくなったり、小さくなったり、というのを繰り返していてはいますが、根幹にあるものは大きくは変わっていません。

 ──フォルムを作る際の起点にあるのは、やはり着用時の身体的な感覚なのでしょうか。

着心地は絶対的に意識しています。やはり、動きにくいものを作ろうとはまったく思わないです。たとえば、袖の太さを出したいとしても、単純に袖を太くして肩を落とすと、腕がなかなか上がりにくい。単に流行を取り入れるような見た目の問題ではなくて、そこに動きやすさや身体の機能をどうやって持ち込むのかという工夫をするのが、成熟したブランドとしてなすべきことだと思います。そうして、少しでも違いがわかっていただけるとありがたいです。

 ──サイ・トゥオンブリーを思わせるグラフィックも目を惹きます。

現代アートが好きで、これまでもドナルド・ジャッドなど、いろいろなテーマを盛り込んできました。今季のグラデーションのジャカードはアーカイブを再解釈したものですが、これは杉本博司の写真をイメージしていますし、トゥオンブリー風のプリントも、これまでに何回かコレクションで発表しています。

──トゥオンブリーの作品のどういったところに魅了されますか。

子供のような自由感でしょうか。あと、空間に合うという点です。トゥオンブリーのアートは、それを展示する空間を全部持っていってしまうことがなく、馴染んでくれるんですよ。一方でジャッドには、研ぎ澄まされた空間を作らなくてはいけないというように、合わせる難しさがあります。ヴィンテージにも合うようなところは、トゥオンブリーの優しさだと思います。

 ──アートとファッションでは、価値の捉え方がまったく異なっているように思われます。

今、洋服は大量生産されていて、どんどん使い捨てのような状態になっています。かたや、現代アートはものすごく高い値段で取引されていて、価値が高まっていますよね。そのなかで、服があまりにもったいないことになっている、貴重な感じがしなくなってきているという思いがあります。

デザイナーやアーティストが思い入れを込めてしっかり作るものは、時代時代で残されていくべきで、その評価はもっと高くなるべきだと考えています。アートや一部ヴィンテージのインテリアは、高価なものになって大事にされている一方、服はまだそこまでの地位を獲得していません。一部はありますけどね。だからこそアタッチメントのデザイナーを退任しても、大量生産の服とは相反するようなもの作りをもっとやりたいとは思います。

 ──今後、アタッチメントのデザイナーは、ヴェイン(VEIN)の榎本光希が務めることになります。

榎本も面白いことやっているので、ヴェインとアタッチメントと一緒に、頑張って伸ばしていってほしいです。

今の若いデザイナーを取り巻く状況は、アタッチメントが約20年前に出てきた頃とは違っています。当時は、やり出したらなんとなく目立つというくらい、デザイナーが少なかった。でも今は、デザイナーの数が多く、出ても埋もれてしまうような時代で、そういったなかで力を発揮しなければいけません。

一方でうまく力を発揮できれば、次のデザイナーにとってはチャンスだと思うので、それを大いに活かして、新しいことをやってほしいと思います。

 ──次世代へと継承してゆくということですね。では、ご自身の展望をお聞かせください。

自分自身は今後、先ほどお話ししたような、「服の価値」をもっと突き詰めていくような活動をしたいです。50代後半にさしかかって、デザイナーの人生最後にどんな良い仕事ができるか。もちろん、命をかけて一生やり続けるという選択肢もありますが、今ここで一回リセットして、新しいチャレンジをしたいです。

※本記事はファッションプレスニュースから配信されたものです。ファッションプレスでは、ブランド、デザイナー情報、歴史などファッション業界の情報をお届けしています。

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