新型コロナ、感染者数の拡大だけにこだわり内容分析が欠落 専門家の存在意義は?

2021年8月1日 07:54

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 新型コロナウイルス対策の専門家が集う政府分科会の尾身茂会長は、7月29日の参院内閣委員会で、全国的な感染拡大が懸念されるとして、「大変な危機感を抱いている」ことを表明した。尾身会長は「社会の中で危機感が共有されていない」、「このままの状態が続けば感染は更に拡大し、医療の逼迫が深刻になる」と述べた。更に政府の情報発信に注文を付け、「今まで以上に明確なメッセージを出して欲しい」と続けている。

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 想えば尾身会長は新型コロナ対策分科会の座長として、色々な発言を続けているが、一貫して感じるのは、感染状況の具体的な分析もなく、「大変だ」という結論だけを再三口にしている印象だ。

 今の日本で政府に許されている一番厳しい対応が「緊急事態宣言の発出」なのだが、余りに再三発出されているため、社会に「緊急事態宣言馴れ」のような空気が漂っているのは確かだ。

 新型コロナ対策を所管している西村康稔経済再生担当大臣が、酒類の卸業者に飲食店への納入を牽制するかの対策を打ち出して集中砲火を浴びたのも、できることが限られている中での思い余った挙句の暴走と見られないこともない。

 対応に変化の兆しが感じられるのは東京都だ。感染者数が過去最多を更新した7月28日(この日は2848人の新規陽性者を確認)、報道各社に対応した東京都の吉村憲彦福祉保健局長は、これまで最多だった1月7日の実績と比較して、重症化しやすい60代以上の感染が3分の1に減少したことや、30代以下の若い世代の感染が増加したことを強調。病床の確保が進み宿泊療養施設も確保されているため、「いたずらに不安を煽らないで欲しい」とマスコミに苦言を呈した。

 小池百合子東京都知事は、同日午後3時ごろの退庁時に、「失礼します」と言っただけで取材には応じなかったが、福祉保健局長との連係プレーである可能性が高いと見るべきであろう。

 隣接する千葉・埼玉・神奈川県知事は相変わらず大げさな表現で、緊急事態宣言の発出へ向かっている。知事が速やかな対応で評価を上げたのは、新型コロナが恐ろしい感染症とのイメージに囚われていた感染初期のエポックだ。

 新型コロナの解明が進み、ワクチンの接種が進んでいる現下にあっても、感染者数の拡大に取り乱し「緊急事態宣言」の安売りに手を染めている首長は、「緊急事態宣言馴れ」の片棒担ぎと言えなくもない。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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