肥満で薄毛が進むメカニズムを解明 東京医科歯科大ら

2021年6月28日 17:34

印刷

肥満が脱毛を促進する仕組み(画像: 東京医科歯科大学の発表資料より)

肥満が脱毛を促進する仕組み(画像: 東京医科歯科大学の発表資料より)[写真拡大]

 肥満と男性の脱毛症に関連があることは、これまでも言われていたが、その理由は明らかになっていなかった。東京医科歯科大学らの研究グループは24日、加齢や肥満が脱毛症を進行させるメカニズムを解明したと発表した。今後、脱毛症の予防や治療につながっていくことが期待される。

【こちらも】慢性的なストレスと高カロリー食品の組み合わせが肥満を加速

 この研究は、東京医科歯科大学の西村栄美教授、東京大学の森永浩伸プロジェクト助教らの研究チームが、ミシガン大学や東京理科大学らとの共同研究として行った。研究成果は23日、Nature誌に掲載された。

 中年太りという言葉があるように、加齢によって基礎代謝が下がり肥満になりやすくなることは知られている。そして肥満は、様々な疾患に影響を与えているが、そのメカニズムの詳細は不明な点が多い。

 それは毛髪に関しても例外ではなく、老化により薄毛や脱毛が発生する。毛穴の中にはバルジ領域という部位があり、毛包幹細胞が存在している。毛包幹細胞は、自分自身を複製して幹細胞の貯蓄を維持しつつ、毛の元になる毛母細胞に分化する。そこから毛髪が生えていくという仕組みだ。

 若いときには、毛包幹細胞が規則的なサイクルで活性化し、毛が生え変わっている。しかし老化とともに毛包幹細胞が自己複製せず表皮になってしまうため、幹細胞貯蓄が枯渇。その結果、発毛できなくなってしまう。

 今回研究グループは、この老化による発毛の阻害と肥満との関連を検討した。

 まず、若いマウスと老マウスに高脂肪食を与えて発毛に与える影響を検討。すると老マウスは1カ月の高脂肪食の結果、毛が再生しにくくなった。一方若いマウスは、数周期の毛の生え変わりを経た数カ月の間高脂肪食を与え続け、毛の生え替わりを数周期経過してから、毛が薄くなった。加齢マウスの方が高脂肪食の影響を受けやすいようだ。

 次に、このような違いが出る理由について調べた。いつ、どの遺伝子が働いているかを調べるための実験法であるRNAシーケンス法や、マイクロアレイなどを使用。その結果、高脂肪食を4日間与えた時点で老若どちらの毛包幹細胞も酸化ストレスを示し、表皮に分化する遺伝子が働いていることが確認された。このとき毛包幹細胞に印をつけて、どのように分化していくかを調べたところ、4日目の時点ではマウスの毛包幹細胞の貯蓄量に変動はなく、毛の生え方に変化はなかった。

 一方、3カ月間高脂肪食を与えたマウスでは、毛包幹細胞内に脂肪が蓄積していることが判明。その状態の毛包幹細胞は幹細胞としては増殖できず、表皮や脂腺へ分化してしまう。その結果、新たな毛母細胞が作れなくなり、脱毛や薄毛が進行する。

 また高脂肪食が、幹細胞が増殖するどのタイミングに影響を与えているのかを調査。幹細胞が成長するときに働くことがわかっているソニックヘッジホッグ経路(Shh経路)に、どのような変化が起こるかを観察した。すると、高脂肪食を3カ月与えたマウスではShh経路が十分に活性化していないことが判明。

 そこで、若いマウスのShh経路を抑制すると幹細胞の異常や毛包の萎縮が生じ、その結果薄毛や脱毛が起こった。そのShh経路の活性低下は、幹細胞内で炎症性サイトカインの活性化が起こった結果であることがわかったという。

 さらにShh経路を再活性化させたときに、肥満が原因の脱毛が改善するかどうかを検討した。すると、高脂肪食を開始した当初から、薬品や遺伝子工学的な方法でShh経路を活性化させて幹細胞を維持した場合には、脱毛の進行を止めることができることがわかった。つまり、高脂肪食はShh経路の活性を低下させることがわかったのだ。また一度減少してしまった幹細胞は復活しないため、早期から維持していく必要があることがわかった。

 今回の研究結果が、加齢により起こる様々な体の変化のメカニズムを明らかにしていくきっかけの1つとなることを期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事