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バフェット氏に引導? バリュー投資の終焉と緩和バブルの副作用 (4)
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1997年5月の上場日には1株16ドル程度だったアマゾン社は、インターネットの普及に目をつけたとはいえども、ただのオンライン書店でしかなかった。そこから、サブスクリプションやダイナミックプライシング、そして自社クラウドを提供する事業者にまで成長し、24年が経過した現在の価格は上場時に比べ約200倍の、1株3,470ドルである。インカムゲインはなくとも、株主にとっては十分すぎる還元だ。
【前回は】バフェット氏に引導? バリュー投資の終焉と緩和バブルの副作用 (3)
バフェット氏は、アマゾン社をここまで成長させた創業者であるジェフ・ベゾフ氏に対して賛辞を贈る一方で、アマゾン社への投資をしなかったことで、自身の信念を貫き通したともいえるのではなかろうか。実際には、バークシャー社はアマゾン社の株を購入しているが「当社で資金を運用する同僚の1人によるもの」と、自身の意向ではないことをはっきり述べている。
では、アップル社だけではなく、GAFAMのなかでも配当があるマイクロソフト社への投資をしなかった理由は何であろうか。ビル・ゲイツ氏とバフェット氏は親友であるにも関わらず、である。実は、ここにもバフェット氏の信念が存在している。つまり、「シンプルで理解できる事業であること」という信念だ。
アップル社の売上高の内訳を見てみると、とにかくシンプルであることに驚かされる。つまりは、iPhoneやiPad、Macの販売が売上高の7割を占めており、クラウドサービスを主として展開する他社とは一線を画す。
愛される製品を作り、それを売るというシンプルな事業は、コカ・コーラ社を愛するバフェット氏に響いたのであろう。しかも、グロース投資の対象であるハイテク株であるにも関わらず、配当があるわけだ。バフェット氏が2018年の年次株主総会において「100%保有してもいい」と絶賛したのも納得できる。
そもそも、バフェット氏が率いるバークシャー社は、投資運用業ではなく、保険業が中核事業であることを忘れてはならない。つまり、保険契約によって顧客から預かる資産を、これまで多くの保険会社が国債や外国債にて運用をしていたように、「長きに渡って、安全に」運用することが大きな目的であるため、キャピタルゲインが主となるグロース投資は不相応といえよう。
かつて、アマゾン社の創業者であるべソス氏が、バフェット氏に「なぜ、多くの人々があなたの投資戦略を真似ないのか?」という質問をしたことがある。この質問にバフェット氏は次のように回答しているが、まさに投資の核心をついた名言であろう。「ゆっくり金持ちになりたい人なんていない」。
しかしながら、そのバフェット氏が大きな方向転換を図らざるを得ない状況が起きた。それが昨年のコロナ禍である。この規模の死者を出した感染症は、スペイン風邪の再来といわれているが、ともあれば100年ぶりの出来事であり、高齢のバフェット氏でさえ経験したことはない。
そんな未曾有の経験を経て、バフェット氏は過ちを認めた。それが、「これまでに70億~80億ドルを投じたが、回収できた金額はそれに遠く及ばない」「私のミスだった」と振り返った米航空株の全売却であった。バークシャー社の20年1~3月期決算は、497億ドル(約5兆円)の赤字であり、長期運用としては手痛すぎる損失だ。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る)
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