手術による死亡率、外科医の誕生日に手術をすると高くなる 慶應義塾大ら

2020年12月14日 16:15

印刷

外科医が誕生日かどうかの手術日と患者の術後30日後の死亡率を示すデータ(画像: 慶應義塾大学の発表資料より)

外科医が誕生日かどうかの手術日と患者の術後30日後の死亡率を示すデータ(画像: 慶應義塾大学の発表資料より)[写真拡大]

 外科医の集中力が、手術の成否に影響する。そんな事実が如実に現れた研究の成果が11日、慶應義塾大やハーバード大などでつくるグループより発表された。

【こちらも】かんぴょうを使った手術の縫合練習キット、製品化に向けて開発へ

 発表された研究成果は、米国の65歳以上の高齢者を対象にした大規模な医療データを用い、外科医の誕生日に手術を受けた人の死亡率が、誕生日以外の日に受けた人よりも、高いというもの。外科医のパフォーマンスが、プライベートの影響をもろに受けるということを統計データで証明する研究で、医療環境の改善に向けた後発研究の進展に期待がかかる。

 騒音などの外的要因が、手術のパフォーマンスに悪影響を及ぼすという研究成果は以前からあった。海外の医学研究によると、医療従事者の83%が、騒音はヒューマンエラーにつながると回答。手術室内の騒音レベルが高いと、医師や看護師が協働で動くチームのコミュニケーションが悪化し、治療成績のミスや術後合併症の発生を誘発するという。

 騒音など、あからさまな悪影響が無くとも、手術の成功率は高くない。国内研究によると、20~30%の患者が手術後に合併症を経験し、5~10%の患者が手術後に死亡しているという。一方で、合併症のうち40~60%が、死亡のうち20~40%が回避可能とされ、医学界では、手術のパフォーマンスを引き上げるための研究、取り組みが進められてきた。

 そんな中、慶應義塾大の加藤弘陸特任教授らは、手術を早く終わらせようとするなどの影響が考えられる「誕生日」に着目。2011年~14年に米国の病院で65~99歳の患者に実施された約98万件の手術データを解析し、外科医の誕生日に手術を受けた患者と、誕生日以外の日に手術を受けた患者の術後30日以内の死亡率を比較した。

 高齢者を対象とする医療保険制度(メディケア)の患者データを用いて分析したところ、外科医の誕生日に受けた患者の死亡率は、誕生日以外の日に手術を受けた患者の死亡率よりも1.3%高いことが判明。

 その理由として、外科医が、誕生日を祝うイベントが退勤後にあることを踏まえ、手術を時間通りに終わらせようとして焦る▽手術中に誕生日に関する雑談をしたり、院内連絡用の携帯電話にお祝いのメッセージが届いたりして、医師の気が散る▽早く帰るために研修医に普段より多めに仕事を任せるーなどが挙げられるという。

 こうした結果を踏まえ、研究チームは、医療の質向上に向け、注意散漫になりやすい状況で働く医師に対するサポートの在り方を検討していく。研究論文は、英国の国際学術誌「BMJ」に掲載されている。(記事:小村海・記事一覧を見る

関連記事