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携帯大手3社の好調な上半期決算 5G投資能力も料金値下げ余力も懸念なし
巨大な装置産業と例えられる携帯電話事業だが、3大キャリアは4Gに対する投資を終えた実り多い収穫の時期を迎えている。不本意なのは折悪しく、通話料金の引き下げを求める圧力が最高潮の時期と交錯したことだ。
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そこでソフトバンクとKDDIは、今後の5Gへの投資が如何に巨額になるかというPRを始めた。両社は合計で次世代通信規格5Gへの設備投資を、今後10年間でそれぞれ2兆円と見積もっているそうだ。NTTドコモも同規模の設備投資が避けられないとすると、3大キャリア全体では10年間で6兆円の投資をすることになる。このことだけを聞かされると、金額の大きさにひるんでしまうのは止むを得ないだろう。
しかし、3大キャリアの年間の営業利益を3.4兆円(4月~9月実績である1.7兆円を2乗)と見積もると、30年までの10年間では3社合計で34兆円になる。いささか乱暴な計算ではあるが、声高に語られる10年間の投資金額6兆円が貧弱に見えるほどの営業利益が見込まれるのだから、通信料金の値下げを求める声が高まるのは当然の成り行きだ。
ただし、3大キャリアが進めている5G対応基地局の整備計画は物足りない。すでに計画が公表されているソフトバンクを例にすると、都市部エリアのユーザーを対象にして、現在1万弱の基地局を21年度までに5万局にしてスマホやパソコンの5G利用に提供する。
その後25年度までに20万局まで拡大して、全国のユーザーに対して現在のスマホ程度の利便性を5Gで確保する。仕上げの30年度までには35万局体制を構築して、法人向けの多様な利用に対応する環境を整備することにしている。
3社が全て同じ歩みを続けることはないが、多少の凸凹があったとしても似たような動きになるだろう。つまり、大都市のユーザーは21年度中には多少の不便さを感じながらも5Gの利用が可能になり、その4年後には全国で現在と同等程度の通信環境を5Gで利用できるようになる。企業が5Gを事業に組み込んで大規模に展開するには、今から10年間待たなければならない計画だ。
オリックスはこの間隙を狙ってローカル5Gに参入する。すでに通信機器の機材メーカーである、アブレシアシステムズ(東京)の全株式を取得した。同社の技術を足掛かりとして、ローカル5Gシステムを開発する計画だ。
物流施設や球場、空港など狭域で多くの需要が見込まれる高効率の場所に限定した5G事業のシステムを、売り出すことになる。3大キャリアが個人を対象にした5G基地局の整備に労力を傾注している間に、事業先や大手の需要を刈り込む作戦だ。対象が明確だから得意のリースで5G通信機器の売り込みができれば、効率的な投資効果が見込まれることになる。
3大キャリアは、膨大な収益力をユーザーに還元する具体策と、投資のスピードや対象をどう絞り込むかという大きなテーマに直面している。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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