関連記事
見えない敵・新型コロナとの"静かな戦争"! (10) 巨人の選手から抗体確認
開幕が待たれるプロ野球で3日、巨人の坂本勇人内野手(31)と大城卓三捕手(27)の2選手がPCR検査の結果、新型コロナウイルスの陽性と判定されたことが発表された。
【前回は】見えない敵・新型コロナとの”静かな戦争” (9) 変わる企業と、変われない業種!
2人は5月末、他の選手やスタッフと共に希望して抗体検査を行ったところ、他の2名も含めた合計4人に、1度感染してから回復したことを示す抗体の存在が確認された。そこでPCR検査を受けたところ、「陽性判定ギリギリ」という微妙な数値が検出されたため、大事を取って「陽性」と発表した上で再検査をしたということだ。その後、3日夜と5日午前に行ったPCR検査は共に、「陰性」だったことが発表された。
PCR検査の結果が明確に「陽性」「陰性」と判定できる場合は問題ないが、「微陽性」「微陰性」との判定では落ち着かない。ましてや「偽陽性」「偽陰性」があるということになると、単純に割り切って対応することが不適切であるのは明白だ。
PCR検査のために鼻咽頭から採取したぬぐい液から、「ウイルスの存在の有無」を確認するためには、検体に含まれているごく微量のウイルスのRNA(遺伝情報)を増幅する必要がある。PCR検査に時間が掛かるのは、この増幅作業に時間が掛かることの裏返しでもある。
感染した直後で鼻咽頭にウイルスが到達していない場合には、PCR検査の結果は「陰性」になり、一方で、感染が確認されて入院治療を行い、所定の日数を経過して退院の条件がそろっても、確認のPCR検査で「陽性」と判定されてしまう例もある。
唾液によるPCR検査導入を検討している北海道大学の豊嶋(てしま)崇徳教授は、「感染から回復した後も鼻咽頭に新型コロナウイルスの死骸(教授表現のまま)が残っているせいではないか」と理由を指摘する。
ウイルスに係わる何らかの痕跡が鼻咽頭に残り、その痕跡を拭い取った検体を増幅して「陽性」と判定しているということになる。豊嶋教授が唾液PCR検査を検討している背景には、検体の採取が容易だということの他に、ぬぐい液よりも唾液の方に含まれるウイルス量が多いという研究結果の存在もあるだろう。
確かにウイルス感染時には、「味覚を感じなかった」という症状が知られている。この場合は口腔内で発生している事態を自覚できる例だが、「鼻咽頭で違和感を抱いた」という報告がないことにも示唆がある。
坂本内野手と大城捕手は感染の自覚のないまま日常生活を続け、いつの間にか治癒して、抗体を得たという有難い事例だ。新型コロナウイルスでは、抗体と再感染の関係が充分に解明されていないが、感染症に係わる知見は、「感染して抗体を得ると暫く再感染しない例が多い」ということだ。生ワクチンはウイルスや細菌の病原性を弱めて予防接種し、自然に感染した場合に近い免疫力を付けることを目的にしている。
新型コロナウイルスでも抗体による免疫力の存在が確認されると、2選手のような場合には、「自らが周囲を感染させることも感染することもない」という特権を手にして、堂々とファンサービスの第一線に立つことさえあり得る。感染後に回復した医療関係者は、張り詰めた緊張感から多少解放され、教師は堂々と教壇に立つことが可能になる。
人々の意識が、1度感染したヒトの方が安全と変わって行けば、「災い転じて福となす」という言葉通りの展開だ。国家や社会が安定して、プロスポーツが元気を回復する可能性を、2選手の事例がうかがわせてくれた。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
スポンサードリンク