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Covid-19の長く暗い影(2)【中国問題グローバル研究所】
*16:06JST Covid-19の長く暗い影(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。
◇以下、フレイザー・ハウイー氏の考察「Covid-19の長く暗い影(1)【中国問題グローバル研究所】』の続きとなる。
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市場ではこの30年にわたり、株価が急落した局面で買いを入れる「押し目買い」が良好な投資だった。中央銀行は相場の下落を食い止めるため行動し、銀行は総じて従来以上に低金利で弾力的な信用供与を増やした。しかし今回の経済への影響は、何千万人もが失業者となるほかに選択肢はほぼないだろう。中国では少なくとも今のところは経済回復への努力があまりみられないが、欧州の各国政府は借入制限を撤廃して市民を直接支援している。憲法上は財政赤字が認められないドイツでさえ危機に目覚め、GDPの10%程度を支援のために支出する計画である。英国首相は予定されている予算演説で、企業が従業員を維持し解雇しない限り、その賃金の最大80%を政府が直接支援すると発表した。しかし解雇はすで始まっていて、一部の人たちにとっては遅きに失した。企業にとって収入がゼロで顧客もゼロであれば、ゴーイング・コンサーンではなくなる。これがまさにロックダウンが何百万もの企業に与える影響である。
中国をサクセスストーリーと見る人もいるかもしれないが、中国の問題はおそらく始まったばかりだ。中国はコロナウイルスが引き起こした初期の保健衛生面の影響は乗り越えたが、経済は到底正常に戻っていない。世界の他の地域がロックダウンされているので、中国人はまだ海外に渡航できないし、子供たちを海外に送ることもできない。ビジネス相手が中国に来ることもない。これは過去30年間続いた改革と開放における常態ではない。今年の成長目標はとても手の届かない状況で、賢明な指導者ならば政策変更を考えるところだが、習近平国家主席は自分のやり方を変える兆しが見えない。危機は強い国家の重要性を宣伝するために使われている。
ウィーチャットなどのソーシャルメディア上では、政治変革と一層の開放を求める投稿が続いている。中国の市民は、新型コロナウイルス感染症の発生が、地元だけでなく中央レベルの政治家に隠ぺいされ軽視されたことに気付いている。中国共産党が最も避けたいのは、世界との関わりを持てなくなったり、保有する不動産価格の下落に直面したりする中産階級の怒りを買うことだ。
共産党は、新型コロナウイルスの歴史を盛んに書き直している。意図的な失敗の数々を軽視したり無視したりしているほか、大々的な対応努力を宣伝したり、さらにはウイルス感染発生を他者のせいにしたりしている。この問題はあまりにも大きくて共産党としても隠ぺいし切れないだろうと考える人は、天安門事件の公式報告を忘れてはならない。天安門の出来事についてほとんど知識を持たない世代が育っている。最近では新疆ウイグル自治区の収容所をほとんどの中国人は知らない。もし知っていたとしても、公式見解に疑問を持たない方が良いことを知っている。武漢の Covid-19が認識されなくなるよう公式記録が改ざんされるまでにどれくらいの時間がかかるのだろうか。
新型コロナウイルスはどのような跡を残すのだろうか。Covid-19による混乱後、われわれの生活が将来どのように変化するかさまざまに予測されている。在宅勤務が増えれば、企業の考え方も変わり、従業員と雇用主、同僚との関係も変わるだろう。企業の仕事のやり方が変われば、最終的には都市やオフィスの開発設計の在り方や、郊外と都心の間の通勤にも関係してくる。国境の開放と人の自由な移動は、今後大きな注目を集める分野だろう。欧州のシェンゲン地域の開放性と自由度は、ウイルスの拡散で大きな批判を浴びている。各国間や国内の旅行者の追跡や足取り把握が今後はより一般的になるかもしれない。携帯電話に搭載された技術を使えば、リアルタイムの情報を政府に提供できる可能性があるからだ。このようなプライバシーの喪失も今は有益に思えるのかもしれない。ただ中国の新疆ウイグル自治区では、このようなリアルタイム追跡のもっと恐ろしい面が既に現れている。
中国では新型コロナウイルスが最初に発生したが、回復や隔離解除でも先頭を行く国になりそうだ。ウイルスが消えた直後の対応として中国はどのように振る舞うのだろうか。中国は当然、自らを世界に対する救助者や支援者と位置付けるが、その物語は長続きしないだろう。コロナウイルスの遺産は中国にとってネガティブなものとなろう。貿易戦争によってグローバリゼーションの再調整はすでに始まっていた。ウイルス問題はその動きを加速させるだけだろう。物資の調達、とりわけ重要な医療用品や医薬品の調達を、中国のサプライチェーンだけでなく国際的なサプライチェーンに過度に依存してきたことに気づいた政府が非常に多い。国境の閉鎖は、それが意図であろうとなかろうとモノの移動を妨げてきた。米国の製造業は多くの業種で何年にもわたり空洞化が続いてきたが、今後はコストの安さを追い求めることだけが重要な尺度ではないという認識が生まれるかもしれない。医薬品やその他重要な機器の国内生産者の確保は、国家安全保障の問題である。これは国際貿易の停止や国境の閉鎖を求めるものでもないが、この数週間は、圧力にさらされている状況では同盟国の間でさえグローバリゼーションの弱点が露呈した。これによって苦しむのは中国だろう。中国はそもそも困難な10年を迎えるところだったが、最悪のスタートとなった。中国共産党は中国国内で途方もない圧力を受けることになるだろうし、米国がもたつく中で中国が世界でリーダーシップを取れると考えている限り、そこでも失敗するだろう。世界は中国に背を向けることはないが、はるかに警戒を強めるだろう。政治に対する警戒、情報に対する警戒、そして中国中心の物語に対する警戒である。
写真:ZUMA Press /アフロ
※1:https://grici.or.jp/《SI》
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