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しかし、自動車製造業は「設備産業」と言われるだけに、今回のパンデミックによって売上げが下がったからと言って、すぐに設備を縮小出来るわけではない。従業員を減らせても設備は残る。そのため、組み立てラインなどの設備は出来るだけ稼働率を上げておくことが、大きな利益源となる。
【前回は】【絶滅の危機? (2/3)】フリーランスは危険な職種
その設備投資した資金が寝てしまうと、家賃が払えない飲食店のようになってしまうのだ。また現状では、従業員を減らしてしまっては、回復が難しくなるほどの売上げダウンとなるであろう。
そこで、自動車メーカーも飲食店と同じように、「稼働率」を高く保つ工夫が必要なのだ。しかし、現実に売上げが下がってしまった時に対処出来る限度は、それぞれの企業の日常的な生産方式の良し悪しで決まってしまう。
現在、世界の「良い生産方式の筆頭」が「トヨタ生産方式」であり、その最新鋭バージョンがTNGAであると言える。つまり、TNGAは柔軟性が高く、世界の生産拠点同士でも売れ筋製品を融通し合い、ライン稼働率を高くすることが出来る。「仕事の平準化」と言われる管理技術だ。
設備や人員は、どうしても最大生産数量に合わせて用意するしかない。そのため最大と最低の変動幅がでてしまうが、それを極力小さくして、最大に用意した設備や人員が遊んでしまう時間を短くすることが「仕事の平準化」だ。
例えば、売れる車種は世界でもばらつくのだが、売れている車種を売れている地域で生産出来ればラインの稼働率は上がるし、付随する運送費や在庫残高なども減らすことが出来る。そのためには、世界のどのラインにおいても、どんな車種でもすぐに生産出来るようにするのが狙いとなる。これを、「混流生産」「スウィング生産」などと呼んでいる。
これには、サプライチェーンの品質保証が出来る体制の構築が前提だ。トヨタのTNGAのように、出来るだけ共通のプラットフォームを使ったり、パワーユニット種類を制限したりするのはこのためだ。
しかし、今般の新型コロナウイルスの感染拡大は、トヨタが築いてきた平準化などの努力でも対応出来ないほどの売上げダウンをもたらしている。固定費を抑えることが可能なTNGAの方策を持つトヨタでさえ赤字覚悟となり、さらに、存続が危ぶまれる事態となるだろう。
後は流動性資金がどれだけあるのかにかかってくるが、トヨタは約6兆円と見られる。さらに銀行に融資枠1兆円を申し入れてあるようで、最後は「総資金量」がどれほど必要な企業であるのかがカギとなる。
年間1千万台を造る生産ペースから、8割減の2百万台のペースに2カ月ほどで落ち込むことは、どれほど膨大な「減算資金」が発生するのか想像もつかない。それでも急激な減産をしなければ、在庫金額がさらに負担となってしまう。だから、すぐに減産フェーズに入れる企業が優秀なのだ。
トヨタが危機的状態にあるのだから、当然、他の世界の自動車メーカーも存続が危ぶまれる状態だ。各メーカーの総資金量がどれほど必要なビジネスモデルであるのかは、決算資料には表れてこない部分があり、現実的には「生産方式」、つまり「造り方」を見ればそのレベルはおおよそ判断出来る。
こうした極限状況ではその企業のビジネスモデルがあからさまになり、普段決算書などで示されていない企業の実体があらわになってくることとなる。さらに、ホンダ・日産などは金融知識のレベルが高いので、やりくりのバッファがあるのだろう。しかしこの2社は、その金融知識がもたらす負の作用によって「総資金量」を増やしているビジネスモデルに気付かず、大変きつい状況に立たされるのと、回復期に入った時は立ち直りが遅い可能性が高い。
この「総資金量」が極端に少なくて済む生産方式が「TNGA」であるが、お膝元のトヨタのディーラーでもこの方式を理解出来ていない店が多いのも現実だ。メーカーが行き詰る前に、日本市場の最前線のディーラーで営業マンを解雇する事態がやってくるかもしれない。これを政府は保証出来るのだろうか?(記事:kenzoogata・記事一覧を見る)
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