5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (21)

2019年12月4日 08:30

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 私の初めての商品ネーミングは、「わたしがイチバン!!」というシングルCDの曲タイトルでした。広瀬香美さんが作詞・作曲し、神崎まきさんが唄ったTBS系ドラマ「日曜劇場・カミさんの悪口2」の主題歌です。25才の時でした。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (20)

 その頃、コピーライター養成講座でネーミングの講義を受講していました。講師はI永さん。日立洗濯機からまん棒、新宿MYCITY、東急Bunkamura、日清oillio、月刊STORY、saita、渋谷MARKCITY、大塚製薬UL・OS、ホンダFITなど秀作を量産し続けるネーミングの大家です。

 I永さんからの課題は「絶滅危惧フットウエア『下駄』をよみがえらせるネーミングとグラフィックポスターをつくれ。下駄をもう一度新発売する案を考えよ」でした。

 その後、私の案がクラスの最優秀作品に選ばれ、専門誌「宣伝会議」に掲載された時は「オレは絶対コピーライターでやっていける!」と、たかが課題で高を括ったものです。

■(23)その商品名は、「○○○がさぁ~」と生活者の口の端に上りやすい、気持ちイイ語感か


 ネーミングには、「機能や提供価値といった意味を表すメッセージ系」と「目印的な記号的ワードで抽象表現するイメージ系」の二方向に大別されます。後者は「語感優先系」とも言えるかもしれません。

 いずれにしても、好感を持って噂話したくなるような軽妙な語感があり、この商品名を知っていることや会話上で使うことが生活者の優越感になること。そんな作用が期待されるネーミングが一つの解だと考えています。

 スペックやメリットの意味性にこだわり過ぎて、正しいけれど堅苦しくてつまらないネーミングに陥ってしまわないように、そして、商品が売り場で屹立してしまうぐらい強い独立性を持ったネーミング開発を目指したいものです。

 では、前述の「下駄」の新ネーミングは、一体どんな案だったのでしょうか。

【ゲッタウェイ(Getaway)】と名付けました。商品名であり、新カテゴリーネームです。

 キャッチコピーは、「これならレールの上は歩けまい。」
 プロダクトコンセプトは、「常識というルールや束縛から解放してくれるフットウエア」としました。

 Getawayは、サム・ペキンパー監督の名作からインスパイアされていて、「犯罪者などの逃亡・脱出」を意味します。

 当時、「下駄」は時代的にフットウエアというレールから既に外れていた。そして、その下駄をもし非常識と規定する不寛容な世の中ならば、逆にその非常識視点から見た優等生的何かもまた非常識ではないか!と言いたくもなる。

 当時、企業社会に強固に存在した同調圧力と閉塞感。そこから早く脱出したい思いが、下駄を無意識にダークヒーローのポジショニングに据えようとしたのかもしれません。

 このネーミングは、下駄の「我が道を行く」普遍的シズルと半ば強引な反骨的視点で考案したワケですが、今ならば、健康視点での実効的プロモーションを企てたと思います。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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