トランプ、商人から外交官へ(2)【中国問題グローバル研究所】

2019年8月8日 16:50

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記事提供元:フィスコ


*16:50JST トランプ、商人から外交官へ(2)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、アーサー・ウォルドロン教授の考察「トランプ、商人から外交官へ(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。

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1976年に毛沢東が死去した後、私有財産のない中国では、国内の民間需要は存在せず、中国政府は経済を成長させるべく決断した。靴の小売から鉄鋼生産まで、すべてを政府が行っていた。土地もすべて政府が所有し(これは現在も変わらない)、貧困状態にある農民が耕作しているため、需要はほとんどなかった。(今日、中国は何百万人もの人々を貧困から救い出したと豪語しているが、中国では貧困は年間約500米ドル以下の収入と定義されていることを考えると、それほど目覚ましい成果とはいえないだろう。)上述の諸国と同様に、中国は成長の原動力を外国の需要に依存しなければならなかった。これは、中国が社会をどうにかして変化させ、国から得るのではない民衆の富を得られるようになるまで続いた。現状では、中国の人口の半分以下が事実上、国のすべての富を占有している。


計画経済およびすべてが国有である現状を事実上廃止することは、共産主義体制や非効率的な国家統制経済の終焉を意味するだろう。しかし、それよりも簡単な道は、根本的な構造改革なしに、外国の需要に頼って中国経済を回復させることではないだろうか。それに加えて、中国の労働力の安さもある。

輸出向けの製造が時代の流れとなり、中国製品が米国をはじめとする海外市場にあふれ始めた。当然中国は、人口が多いというだけで大国であり続けた。GDPの半分以上は国内起源であったが、多くの場合は国際市場がない地元の必需品である。


発展が最も速かったのは、香港の豊かな自由経済に近く、長きにわたる貿易の伝統による恩恵を受ける南東部の広州(広東)周辺である。東莞周辺には、簡易的なつくりの工場が乱立し、主にウォルマートのような巨大なアメリカのディスカウント業者向けに大量生産を行った。


外国の顧客が、調達した商品の原産地や、質の低さを理解することはほとんどなかった。米国の中国貿易仲介業者で作家のポール・ミドラー氏は著書の中で、自身の数え切れないほどの直接の工場訪問に基づき(2011年の「だまされて。‐涙のメイド・イン・チャイナ」を参照)、東莞や他の工場から輸入された美容製品の成分は「高級アロエクリーム」と謳っているが、実際はその記述とは何の関係もなく、アロエとは程遠い、むしろ不衛生な状態で製造された偽物だと記している。


その一方で、今思い返せば理解し難いことであるが、海外の生産者が生産拠点を中国に移し始めたのである。その多くは、光ファイバーや、コンピューターなどのハイテク関連であり、クリスマス・ライトの類や有害な歯磨き粉などのような従来のものではなかった。何十億ドルもの研究成果である自社の専有技術が、知らないうちに盗用されたことに、米国人はショックを受けた。もちろん、これは一部には中国の二面性が原因であるが、同時に見事なまでのアメリカ人の無知と愚かさによるものでもあった。


その結果、外国製品の生産は壊滅的な打撃を受け、工場は閉鎖され、中間層は失業状態に陥った。 そこに登場したのがトランプ氏だ。


トランプ氏の当選は、小さな島国からではなく、世界有数の経済大国からの輸入品の波によって生活水準が壊された多くの米国人によって後押しされた。トランプ氏の行動は、中国にとって、予想外であると同時に決定的だった。自らの手で、中国経済の全般的な危機につなげたともいえよう。


中国は、自国の経済成長は奇跡的であると主張する。しかし、現在の中国の一人当たり名目GDPは450米ドル程度と、世界の下位40%に位置し、ブラジルよりも少なく、ウルグアイの半分強だがパラグアイより上、といったところである。毛沢東時代の中国よりはましだが、他国を真に驚かすような奇跡ではない。


問題は、中国指導部がこれまでの成長の例、すなわち第二次世界大戦後のドイツの「経済の奇跡」、世界で最も有能かつ先進的な経済大国への日本の発展(戦後の欧米の共通認識は、日本は海外からの援助により無期限に成り立つというものだった)、そしてとりわけ韓国、台湾、香港、シンガポールを全く理解していないことである。


習近平氏の身の周りには、この状況を理解する世界で見ても一流の経済学者が何百人も働いている。しかし、共産党が彼らに意見を求めることはない。したがって、中国の成長を真に自立的なものにする根本的な改革が存在しない。


この短いエッセイの中では、解決しなければならない問題の一部を列挙することしかできない。資本配分は市場金利で決定するべきである。そうでなければ、配分の誤りが長期的には経済の歪みと機能不全につながっていく。共産党は自分たちの無能さをもう十分に示したのだから、土地と生産は私有化するべきである。中国の貨幣を兌換可能にしなければ、本当の貨幣価値を知ることは誰にもできず、貿易の障害となる。そしておそらく最も重要なのは、政府の借り入れによる成長は終わらせなければならないということだ。あるいは「終わることになるはず」と言うべきかもしれない。GDPの400%程度の債務を抱えていれば、避けられない破産や銀行破綻などを通じて債務は自ずと清算されるだろう。中国は何度か乱脈融資によって経済を押し上げ、銀行は実質的に破綻状態に陥ったが、政府によって救済された。今日、中国は史上最悪の状況にありながら、もはやこれ以上先延ばしすらできなくなった差し迫った危機という底なしの穴に政府が生み出す資金を注ぎ込み続けている。


国による経営や共産主義経済は長期的には機能せず、結局は自滅するため、その報いは自然の成り行きだ。必要なのは改革であり、対処療法ではない。しかし、政治的には、中国政府はこの状況を継続できると信じているようだ。それでは、定期的な経済危機や効果のない、あるいは混乱を招く反応が常となってしまう。


共産主義体制には脆弱性が内在するが、中国は、先進国から数十億ドルもの海外直接投資を吸い上げる一方で(このような奇妙な意思決定をする国があるのかは謎だが)、米国の雇用と引き換えに、規制されていない米国市場への輸出を増やすことができるかぎり、成長を持続させることができる。トランプ氏は、中国の歪んだ経済システムを作り出したわけではないが、公正さ、均衡、合法性を予想外に主張する姿は、警察が突然違法カジノに入ってきたときにギャンブラーが感じるような衝撃を中国にもたらした。


※1:中国問題グローバル研究所
https://grici.or.jp/

この評論は7月18日に執筆


(「トランプ、商人から外交官へ(3)【中国問題グローバル研究所】」へ続く)《SI》

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