関連記事
5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (9)
前回に続いて、私が駆け出しのコピーライターだった頃の話から始めます。
【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (8)
90年代後半、某携帯電話キャリアを担当していた私は、D社の牙城を崩すため、地道な自主プレを繰り返していました。
当然、経験の浅い私1人で戦えるわけもなく、ある大御所アートディレクターの門戸を叩くことになります。
打ち合わせとプレゼン作業は、毎晩7時以降。場所は六本木。大御所のオフィスです。まず、書いてきたコピーを大御所に見せることから始まります。その後は……沈黙、書き直す、見せる、沈黙、大御所のディレクション。といったペースで進んでいきました。
ある晩のこと。なかなかコピーが見つけられず、テーブルでウトウトし始めたその時!!大御所の一言が私に突き刺さります。
「コバヤシくん。キミね……こんなもんでいいでしょ!という気分で書かないでほしいんだよね。僕はね、糸井みたいなコピーが欲しいんだよ!」
と大御所は、「コピー年鑑1977年」のあるページを見せてくれました。そこには、私の知らないコピーが載っていました。
キミと、はじめて「あんなこと」になった頃。
まだ、このジーンズも、恥ずかしいほど、
青かった。
暗がりで、ゴワゴワ、音なんかしちゃってサ。
クライアントはWELDGINジーンズ。アートディレクターは湯村輝彦さん。若い男女2人がニュータウンっぽい丘の上・高台の地に腰かけて、街を眺めています。ゆっくりとタバコをふかすジーンズ姿の若い男と、その少し離れた所に座る若い女。過去を回想しながらも未来を見据えている、ジーンズとしては珍しい広告です。
■(11)セオリーに支配されない提案が、実は最も強い。
この広告は、戦略として、学生より上のニューファミリー層を動かそうとしています。シーンも国内のニュータウン。そして、若い頃なら1度ぐらいは思い当たる節がある「青い体験」を、ちゃんとジーンズ愛も絡ませながら本能的に描破しています。人間的青さを自分事として素直に受け取れる、稀有な大共感コピーとなっているのです。
糸井さんのコピーは、自分に制限を一切かけていません(想像)。だから、強い。「その商品でしか言えないことを言おう!」という、コピーのセオリーも突き抜けてしまう真理で書いています。いい話ではなく、ホントの話を書くことがコピーの基本。都合で書かないから、人の気持ちに触るわけです。これは、コピーに限らず、どんな提案でも同じではないでしょうか。
大御所は、未熟な私に対し、最高レベルのコピーを教示してくれました。私はこの後、東京コピーライターズクラブ新人賞を狙っていくことになります。
スポンサードリンク