5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (4)

2019年5月13日 11:10

印刷

 「海外賞狙うとか言うならさぁ…… ブロンズとか言ってないでさぁ…… せめてゴールドとかさぁ… グランプリでしょ……」

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (3)

 博報堂時代、M田CDに期初面談で言われた言葉です。真意は「中途半端に取り組むな!」でしょう。今日は、そんな広告賞とプレゼンの相関概念を語っていきます。

■(4)海外賞が獲れるか?という高い視座でプレゼンを見据える

 私がCDとしてプレゼンに取り掛かる時は、最小限の人数で固め、【極めて個人的な欲望】をクリエイティブチームの中で握ってから、スタートしていました。

 「D&ADでも獲ろうかぁ~」
 (※D&ADとは非常にステータスの高いロンドンの海外広告賞です)

 この俗な掛け声は、チームのモチベーションを上げるための社交辞令ではありません。今思うと、成功、名誉、承認欲求の先にある「自信」が常に欲しかったのだと思います。クリエイターは平静を装いながら、常に焦りを抱えています。もしご自身がクリエイターなら、推察できるはずです。

 こうして、何かしらの広告賞を頭の片隅に入れて進めていく少数チームの利点は、一人一人がプレゼンに向けて明確に「役割と責任」を強く自覚できること。初めから権威ある賞を目指すことは、全知をふるって、より戦略的に取り組むことになります。それは自動的に企画が先鋭化されていくことです。

 あとは、賞を獲りたい欲望に自分自身が支配されないようにすれば、首尾よく運びます。作業に多少の負荷がかかっても、未来の受賞を妄想できれば、クリエイターはそれをエンジンにして進んでいけます。

 そして運よくプレゼンに勝利し、実施して成果を上げられれば、バイアスの無い海外賞や専門誌から評価され、「純度の高い自信」を手に入れられるのです。人数が少ないほど、その純度は高まっていきます。

 このように、最初から受賞を意識し、高い視座からプレゼン作業することは、当事者たちの自覚を促し、且つ企画の弱い部分をあぶり出し、それを強化していくことになるのです。

 最後に。「賞は、あとからついてくるもんだから…」という常套句を使う人がいます。断言しますが、ついてきません。最初から誘導しておかなければ、賞はついてこないのです。やや感情を手放して言うならば、このような常識風味の言説は、ぜひ無視していただきたい。各賞の傾向や業界のトレンドを先読みし、社会変革性の高いアイデアで狙っていくからこそ、賞は獲れるものなのです。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

記事の先頭に戻る

関連キーワード

関連記事