5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (3)

2019年5月7日 07:48

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 博報堂時代のプレゼン術を紹介するコラムです。今日は「プレゼン前」の基本姿勢の話。勝敗を左右する大切なメソッドを紹介します。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (2)

■(3)「中期経営計画」と「経営理念」に目を通す

 地味です。しかし新規で担当する得意先や競合プレゼンの時は、予算の大小にかかわらず、「中期経営計画」と「経営理念(ミッション、ビジョン、バリュー)」を完読してからプレゼン作業に臨んでいただきたい。たとえば、「既存事業の再定義と見直し」「強化すべき分野の取り組み」「グループ企業の再編・統廃合」といった改革内容を理解してから創出する企画と、そうではない企画では、決定権者の浸透度・納得度が変わってきます。

 私の場合、こういったブリーフィングシート以外の企業情報を知った上で打ち合わせをすると、CSV施策がひらめきます。それをオプション企画、または本命企画として提案します。ただしCSVは、クライアントによっては実験的な面が否めず、扱いも広報部領域になるケースがあり、プレゼン先の宣伝部から却下される場合があります。

 しかし提案内容に可能性を感じれば、上司に上げたくなるのがビジネスパーソンの性でしょう。提案先(窓口)や提案後のフォローしだいで採用確度は上がると思います。(※CSV=クリエイティブ・シェアド・バリュー。超要約すると「その業界の社会課題と企業の需要拡大を同時解決する施策」を意味します)

 繰り返しになりますが、クライアントの経営企画、経営理念、課題、コンピタンス(目的達成のための意図・対処・努力)を俯瞰視することから、提案に必要なイシューが浮かび上がってきます。そこを見逃さずに組み込み、企画で「答え」を出していければ、質も勝率も上がります。

 クライアントの経営ビジョンをクリエイターが咀嚼して語るプレゼンは、【迫力と説得力】が全く違います。他店のプレゼンターとの差異に気づき、信用度も高まるでしょう。
 またプレゼン作業中に、資料だけでは理解できない部分や開発部門への取材が十分にできないまま、プレゼン日を迎えることもゼロではありません。その保険としては、早い段階で「カスタマーセンター」に「1人の客」としてプレゼンに役立ちそうな質問や疑問点をぶつけてみることです。

 店舗があるなら「店員」に訊く。思いつくかぎり、多くの方々にギリギリまで協力していただく。何も得ない時もあれば、宣伝担当者とは違う視点の有益情報を得ることもあります。そしてそのファクトたちは、後日カタチを変えて、あなたを必ず助けてくれます。

 この方法には、もう1つ興味深い点があります。

 カスタマーセンターや店員の対応(回答内容、接客態度)によって、「企業の体質と本性」が一気に可視化されることです。現場の社員が、企業の経営理念や目標を「行動規範」に基づいて本当に実現しようとしているのか、どうなのか。ここには、きっと、別の課題創出のヒントがあるはずです。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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