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株式投資は博打などではない (5)
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株価ではなく経営者を買え。株式投資の世界で語り継がれている経験則の一つである。興味深い。是非とも参考にして欲しい。具体例を記す。
【前回は】株式投資は博打などではない (4)
ドンキホーテホールディングス(以下、ドンキホーテHD)は前社長の安田隆夫が1980年に設立した総合ディスカウント店(前2018年6月期末の店舗数418)。現社長の大原孝治は1号店開設以来、安田と共に歩んできた一番弟子。
29期連続増収増益。今19年6月期も増収増益、(14期)連続増配計画でスタートした。
そんなドンキホーテHDの株式を1対2の株式分割(発効日:15年6月26日)直後の16年6月期初値(15年7月初値)で買い、今日まで持ち続けていると株価上昇分だけで約33%のパフォーマンスを残している。この限りでも『株式投資はリスキーだが博打などではない』の選択肢「連続増収増益」「連続増配」の礎が構築された企業への投資が、資産形成上いかに有効かを理解してもらえると思う。
ドンキホーテHDをある投資顧問会社のトップと話題にしたことがある。彼はこう言った。
「いまは持ち株数も減少しているが、上場して早い時期にタップリと利益を享受させてもらった。初めて投資したのはドンキホーテが新聞の社会面で冷やかに扱われていた時期だった。深夜営業が売りのため夜更けの騒音に近所の住民の批判が相次いでいるとか、つけ火の火事だったが“あの足の踏み場もない陳列状態じゃ火が出たらひとたまりもない”などと批判されていたころだった。最終的な投資の決め手は、創業者オーナーの安田との数回の面談だった。安田隆夫という男を買ってみたいと思った」
この投資顧問会社のトップは塩住秀夫。70歳を超えたいまなお現役のファンドマネージャー。主に海外年金資金の中長期運用を手掛けている。
塩住の名前が斯界に高まったのは1980年代のこと。世界的に著名な投資家にジョージ・ソロスがいる。自ら「クオンタム・ファンド」を運営し、いまもその言動が持つ影響力は大きい。そのソロスから「私のファンドの日本株運用を引き受けてくれないか」という打診があったのは1982年。ロンドンの金融街(シティ)で長らくファンドマネージャーを務め、シティ(の投資運用会社)で日本人初の役員となった経歴・実績が打診の引き金だった。当時、塩住は日本に戻っていた。が、「クオンタム・ファンドで日本株運用を任せたい。契約は3年。運用に口出しはしないというオファーは、この世界で飯を食ってきた身としては断りようなどない魅力だった」と振り返っている。
1983年から86年の3年間、クオンタム・ファンドの日本株運用と取り組んだ。「約定の報酬に、塩住は車好きだからといってジャガー1台分のマネーを貰ったよ」と言う。
塩住は成長株論者。とりわけ中小型株の投資に軸をおいている。塩住は未だ小型株時期のドンキホーテHDに着目、精査を積み重ねたうえで「安田という男に賭してみたい」という思いから同社への投資を最終決断した。「ビジネスモデルもさることながら、安田の納入業者への配慮に惚れた」と言い及んだ。ドンキホーテHDの子会社にアクリーティブという上場企業があった(現在は芙蓉総合リース傘下/同名で上場)。
前身はフィデック。伊藤忠出身の若き起業家の深田剛が興した会社だった。伊藤忠時代に中小企業金融の部門に籍を置いていた。起業の契機は「中小企業の役に立つ事業をやりたい」というものだった。ビジネスモデルは企業が振り出す支払手形を割り引いて、期限時の回収で利ザヤを得るというもの。いまのアクリーティブの主軸事業と同じである。
深田はこの事業の営業に奔走した。若き起業家の提案に容易に理解を示す企業は少なかった。そんな中で真摯に耳を傾けてくれたのが安田だった。安田はこう言ったという。
「うちの納入業者は中小零細企業がほとんど。彼らの協力なくしてはうちの事業は成り立たない。残念ながらうちはいまだ手形決済。協力者の本心が3カ月先の100万円よりいまの95万円だという気持ちは手に取るようにわかる。よし手を組もう」
詳細は省くがドンキホーテHDを入り口にフィデックは事業を拡げていったが、2008年のリーマンショックを契機に沈んだ。大手マンション業者の穴吹工務店も顧客先の1社だった。穴吹工務店が倒産。下請け業者への支払手形を大量に有していたフィデックはひとたまりもなかった。株式を引き取りアクリーティブ設立という形で手を差し伸べたのが安田だった。
塩住は、「特に中小型株の投資には経営者の資質を見抜くのが肝心。でもその前提として、中小型株投資の決断にはいくつかの条件が満たされなくてはならない。自分はPEGレシオを大事にしている」とする。
真に成長力を有した中小型企業への投資は株式投資の醍醐味。じっくり腰を据えることで資産形成につながる。だが中小型株は値動きが軽く激しい。それに一喜一憂せず株式投資を博打の域から止揚するための武器を持っておくことも肝心である。
「PEG(ペッグ)レシオ」の算定式はこうだ。『時価の予想PER÷過去5期間の1株当たり利益の平均増加率』。要するに企業の成長力を株価がどの程度反映しているかを示す物差しである。「2以下は買い余地あり」とされる。
が、塩住は「僕の投資法はPEGレシオ1以下の中小型成長株を投資対象の俎上に乗せることに始まり、経営者が買えるか否かを最終判断して資金を動かす。ドンキホーテHDを買う入り口もPEGレシオ1以下だった」とした。(敬称、略)
(記事:千葉明・記事一覧を見る)
続きは: 株式投資は博打などではない(終)
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