【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(3):◆何故、総合商社は評価されないのか◆

2018年9月2日 10:05

印刷

記事提供元:フィスコ


*10:05JST 【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(3):◆何故、総合商社は評価されないのか◆
〇貿易戦争下、総合商社の対応注目〇
戦前、日本の外交官から「公館なけれど物産あり」とか、「物産が進出し、郵船が航路を開き、横浜正金銀行が支店を出す」と言われた時代があった。わが国の海外展開を担ったのが総合商社だ。戦後、GHQの財閥解体などの紆余曲折があったが、資源の無い我が国にエネルギーを中心に資源を調達し、加工貿易製品を海外で売った。言わば、貿易のスペシャリスト。各々規模の差はあれ、エネルギー・資源、機械・プラント、生活産業、次世代分野などで激しく競争している。

現状の総合商社株は、投資有証や固定資産評価損益で収益が大きく振れるため、「投資会社」の位置づけで、株価指標は割安となることが多い。配当利回りは住友商事の4.15%を筆頭に総じて高い。また、エネルギー・資源のウェイトが高いため、その価格動向に左右されることが多い。今期も挙って最高益更新予想ながら、年初来高値を更新しているのは丸紅のみ。逆に中国のウェイトが高いことが嫌われているのか、伊藤忠は安値を更新している(29日現在5995万株の空売り残)。三菱商事、三井物産、住友商事は春の安値を下回らなかったとの評価に止まる。

しかし、三井物産で見ると1969年から進出してきた米西海岸での穀物取引は年間約560万トン、米西海岸輸出市場の17%を占める。
100%子会社のUGC社で展開し、12年から拡大策を取り、取扱量は倍増以上、小麦中心から小麦40%、大豆33%、トウモロコシ25%の構成に変わっている(ブラジルの穀物集荷事業マルチグレイン社からは撤退)。
当然、向け先はアジア、中国が重要な市場だ。米中貿易戦争での高関税合戦の影響を受けるはずだ。営業収益5兆円規模の三井物産にとって規模は小さいためか、貿易戦争へのコメントは出ていない。

トランプ貿易戦争はモノへの高関税が中心だ。忘れていた重商主義時代の攻防を蘇らせる側面がある。現場での様々な障害を乗り越えて貿易発展に貢献してきた総合商社の展開力が見直されてもおかしくない。
一時的にダメージを受ける可能性があるなら、業績悪化懸念→株価下落の圧力になる。11月からはイラン産原油の輸入禁止も始まる。現状で行けば貿易戦争の対象領域がドンドン拡大する気配だ。
日本政府が進めるTPP11、日欧EPAなどの自由貿易枠組み、NAFTA再交渉による新枠組、難航するブレグジットなど、急変する世界の取引環境を市場が課題視するなら、まず総合商社の動静に注目すべきであろう。


出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(18/8/31号)《CS》

関連記事