遺伝情報はどのようにして次世代に伝えられるのか 東大が仕組みを発見

2018年8月11日 19:40

印刷

 東京大学定量生命科学研究所所長の白髭克彦教授は10日、遺伝情報を次の世代に正確に伝える仕組みを発見したと発表した。

【こちらも】遺伝子編集技術で意図しないDNA損傷の可能性が見つかる

 染色体が発見されたのは、19世紀半ばのこと。当時、研究者が細胞分裂を観察していたところ、細胞が分裂するのに合わせるかのように、等分されている紐状の物体があることに気づいた。これが色素によく染まったことから、後に「染色体」と名付けられることとなった。

 染色体は遺伝に関わり、染色体に含まれるDNAの塩基配列が、生命活動を司る。人類は約30億の塩基対のDNAからなり、遺伝情報を次世代につなげる。遺伝情報を正確に次世代に伝えることは、生命の継続性にとって重要であり、その破綻は癌化や老化と密接に関連する。

 細胞が増える際にはその遺伝情報もコピーされ、次世代においては一つの細胞に一つずつ均等に分配されなければならない。それを可能にする酵素(ESCO2)の作用機序を明らかにしたという。

●癌や分化異常を伴う疾患の治療に期待

 ESCO2は、遺伝情報をコピーする蛋白に直接結合し、遺伝情報がコピーされるはなから分配のための足場をゲノム上に築く。そして、コピーする蛋白との結合がなくなると速やかに分解されることを発見。

 ESCO2の変異は、癌化や分化異常を引き起こす希少疾患の原因だ。今回の発見は、ESCO2の変異が原因で起こる癌や分化異常を伴う疾患であるロバーツ症候群の分子病態の理解および診断、治療に役立つ。

●遺伝情報伝達の概要

 染色体は細胞が増殖する際に、コピーされ、均等に次世代の細胞に1コピーずつ分配される。この分配の際に、姉妹染色分体間接着因子「コヒーシン」と呼ばれるリング状のタンパク複合体が働く。コヒーシンは、コピーの結果生じた姉妹染色分体をつなぎ留め、正確に1コピーずつ染色分体が次世代の細胞に分配されることを保証。この際、コヒーシンはアセチル化されることで安定に2本の染色体をつなぎとめる。

 今回、アセチル化酵素が機能するその詳細なメカニズムを解明。遺伝情報をコピーしている現場では、分配のための足場作りは効率良く進める一方、作業終了次第、責任酵素を失活させるという巧妙なメカニズムだという。(記事:小池豊・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事