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まったく同一の遺伝子を持つアリにも個性がある 北大の研究
働きアリと女王アリ(画像はイメージです)。 (画像:いらすとや)[写真拡大]
北海道大学大学院農学研究院の長谷川英祐准教授らの研究グループは、特殊な繁殖方法を取るために各個体が完全に同じDNA配列を持つある種のアリにおいて、しかしそれでも行動に個体差があることを発見した。
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ある種のアリというのはトカラウロコアリというアリである。日本列島に暮らしている小型のアリの一種なのであるが、無性生殖で増殖する性質を持つため、コロニー内の全個体が全く同じ遺伝情報を持つ。
今回発見された個体差は、「ショ糖水溶液を飲み始める濃度」(反応閾値)であり、大きな個体差が存在することが研究により既に立証されている。
働きアリのショ糖溶液に対する反応閾値にはアリの適応と生存の上では大きな意味合いがある。必ず濃度の高い砂糖水を選ぶことで、質のよい餌を集められるといったようなことだ。
なお、個体ごとに縦断的な検討を行ったところ、1カ月後の再測定において、実に43.8%のアリにおいて、反応閾値が変化していた。しかも、上昇する個体も下降する個体もあった。これが加齢などを理由とするものであれば(アリの寿命は基本的に短いので1カ月というのは彼らのタイムスケールでは長期間である)、その変動は一方向であるはずなので、おそらくはこの変化は、個々のアリの「経験」に基づく、何らかの生命機構によって生じせしめられた変化ではないかと考えられる。
この発見にはかなり重大な意味がある。既存の進化理論においては、「生物の変化(進化)は、DNA上の記録データの変化によって生じる」ものであるという大原則があるのだが、DNAとは無関係な個性が高度な進化を生じる事実があるのであるなら、その大原則自体を再考しなければならないのかもしれないからだ。
従って今後の研究としては、個体間の差異がどうやって生じているのかについて、さらなる解明が必要であるという。
なお研究の詳細は、Royal Society Open Science誌に掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)
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