【大前研一「企業の稼ぐ力を高める論点」】長時間労働をなくす方法はあるか? 慣れという人間の性を理解しよう

2017年11月21日 19:19

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記事提供元:biblion

 【連載第6回】今、日本企業の「稼ぐ力」が大幅に低下しています。長時間労働の常態化により生産性が低く、独自の施策によって効率化を進めることが重要課題となっています。経営トップは常にアンテナを高くして、自社や業界がどれだけの危機にさらされているのかを正確に知覚し、正しい経営判断につなげていく必要があります。本連載では、企業の「稼ぐ力」を高めるための8つのヒントをお伝えします。

【大前研一「企業の稼ぐ力を高める論点」】長時間労働をなくす方法はあるか? 慣れという人間の性を理解しよう

 本連載は、書籍『大前研一ビジネスジャーナル No.14(企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか~生産性を高める8の論点/変化する消費行動を追え~)』(2017年9月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。今回の記事では、企業の稼ぐ力を高める8の論点から『論点6.長時間労働、残業をなくす方法はあるか?』をご紹介します。
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長時間労働対策のお粗末な実態

 ここでは企業の対策について見てみましょう。

 「あなたの職場が採用している長時間労働の抑制対策について、あなたの評価を教えてください」というアンケートでは、半数以上が否定的な評価です(図-25)。

 「事前に上司の承認を取るなど、残業申請を厳格化」したり「ノー残業デーを設ける」ようにしても、終業後には上司から飲みに誘われ、仕事と何ら変わらないというお粗末な状況では当然でしょう。
 「業務の外部委託を増やす」のは効率化の手段としては有効ですが、外部業者に説明するため仕事が増えたという不満も出ています。
 「出勤時間を早める」と時間に余裕があるからとダラダラ仕事をやるようになったという事例が挙がっていますが、そういう社員は首にすればよいのではと思います。
 強制的に「PCのシャットダウンや消灯により職場で働けなくなる」ようにするという方法では、1カ所に集まってそこだけ電気を点けて仕事をやるようになって何の意味もありません。

 This is 日本です。こんなことはイタリアでは絶対起こりません。
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長時間労働を是正した先行事例からわかること

 失敗例だけではなく成功例も見ていきましょう。

 長時間労働是正への取り組みが成果を挙げた例をまとめました(図-26)。
 ネスレ日本、住友商事グループのSCSK、伊藤忠商事、各社いろいろとやっています。いずれも素晴らしい考えだと思いますし、それなりに効果があったということで公表しているのですが、抜本的な業務改革になっていなければそれは問題です。

 残業代とは残念ながら時間外副業アルバイトのような状況になっているので、残業代をあらかじめ基本給に上乗せしてしまうというSCSKのようなやり方は効果があるでしょう。
 しかし、こういうやり方ですといったんは改善するものの、しばらくするとまた元に戻ってしまうのです。

 例えば、残業代で家電のローンを支払っているので残業代がないと生活が苦しい、という社員に対して残業代を基本給に上乗せすると、その社員はいずれまた別に新しい家電を買うことになります。つまり残業をするために負債を抱え込むようになり、何がどうあっても残業代がないと駄目だ、という具合になってくるのです。
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 AT&Tの製造部門だったウェスタン・エレクトリックのカリフォルニアのホーソン工場で1920年代に行われた、生産効率に関する実験調査があります。
 工場の照明と作業能率の関係を調べていたところ、明るくしていったら能率が上がっていったけれども、やがてそれがなぜか頭打ちになり止まってしまった。そこで今度は暗くしていったらまた能率が上がるようになった、という実験結果が得られました。

 要するに慣れてしまうということで、人間の生産性は何らかの刺激があれば改善するのです。
 つまり、変化に対する反応として生産性の改善があるのだということですが、SCSKの残業代上乗せや伊藤忠商事の早朝勤務インセンティブは、次に新しい変化が用意されていなければ必ず頭打ちになり止まってしまいます。
 3~4年経つともう変化しなくなりますから、そうしたらまた別の方向に振って刺激を与えなければならなくなるのです。

 経営というのは大きな面で、10年単位でこのように刺激していく必要があります。
 営業マンが「社長、1台余計に売ったら基本給を高くしてくれたのはありがたいけども、この働いてないやつと同じ給料ってのは嫌ですよね」と言うので、では1台売るごとにインセンティブをつけるようにしたら、今度は「頑張ってたくさん売った時は実入りがいいけども、売れない月は実入りが少なくて生活が安定しません。母ちゃんにも責められるんで何とか基本給上げてください」となるのです。
 こんなふうに言うことがどんどん変わってくるのが人間の性です。そこに「お前、5年前はこういうふうに言ってたじゃないか、何言ってるんだ」と返しては駄目なのです。人間とはそういうものなので、この人間の性をうまく掴まえてこのように“揺らす”というのが経営の一番ベーシックなところです。

 (次回に続く)

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大前研一ビジネスジャーナル No.14(企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか~生産性を高める8の論点/変化する消費行動を追え~)


¥1,500
「大前研一ビジネスジャーナル」シリーズでは、大前研一が主宰する企業経営層のみを対象とした経営勉強会「向研会」の講義内容を読みやすい書籍版として再編集しお届けしています。
 日本と世界のビジネスを一歩深く知り、考えるためのビジネスジャーナルです。
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