日立、匠の技をAIとFB制御で再現 鉄鋼プラントの冷間圧延機で実用化

2017年11月1日 18:15

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冷間圧延機(写真:日立の発表資料より)

冷間圧延機(写真:日立の発表資料より)[写真拡大]

  • 正常に圧延された鋼板(左)と波打ちが生じている鋼板(右) (写真:日立の発表資料より)

 日立は10月31日、鉄鋼プラントの鋼板を製造する冷間圧延機において、熟練工の冷間圧延機の操作ノウハウを人工知能(AI)に学習させ、かつフィードバック(FB)制御することで、匠の技を再現したと発表した。なお、8月より実証実験を開始。本技術の有効性を確認できたため、来年3月から鉄鋼プラント向けに提供していく予定という。

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 薄板製品は、自動車、家電製品などの高い寸法精度や表面品質に応えている。例えば、自動車の燃費向上によるCO2削減の観点から、車体の軽量化ニーズは高い。伴い、薄くても普通鋼板と同じ強度の高張力鋼板(ハイテン)の需要が高まり、冷間圧延機などの製造装置も自動化を伴い進化している。ところが、最終的な表面品質は熟練工に委ねられるという。

●鋼板の製造における課題

 常温で鋼板をプレスで伸ばして薄く製造する装置が、冷間圧延機である。薄版の薄さと寸法精度の要求を満たすように自動制御しているが、鋼板の両端や中央部分が波打つ代表的な形状パターンがあらわれ(写真右)、これを補正する必要がある。

 形状の補正は、形状の自動認識・パターン制御とオペレーターの手動操作による微調整を組み合わせで対応。手動操作による細かな微調整は、熟練度の差により、ばらつきがでる課題があった。加えて、鋼板の形状にばらつきは、歩留まりの低下、鋼板の破断、装置の破損といったリスクを伴うという。

●AIを活用した冷間圧延機の制御

 大まかな仕組みは、蓄積した膨大な鋼板の形状パターンや操業の実績データを深層学習させる学習プロセス、自動制御により鋼板の波打ちを補正するプロセスからなり、鋼板の品質を向上する。

 熟練工の手動操作と鋼板の形状実績の関係性を深層学習。そこから自動で最適な制御を導出し、冷間圧延機の制御へとリアルタイムに適用する。熟練工がもつ冷間圧延機の操作ノウハウをデジタル化した成果である。

 膨大な蓄積データをもとに、鋼板の形状パターンと機械の制御の関係性を学習できることは、これまで見出せなかった新たな制御方法を機械が自動で習得することも可能にしたという。

●冷間圧延機(日立、AI活用)のテクノロジー

 先ず、冷間圧延機の導入実績がある顧客と実証実験ができていることであろう。北京首鋼の遷安製鉄所において、8月より実機に本技術を適用する実証実験を開始し、本技術の有効性を確認している。

 深層学習による異常値の出力を抑制する仕組みを備えるという。誤った制御による鋼板の破断や装置の破損といった、プラントへの悪影響を防止する。

 今回のAIとFB制御とを組み合わせて匠の技を再現する試みは、独自の技術であろう。このような仕組みが、技術の伝承の一助になると期待される。(記事:小池豊・記事一覧を見る

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