宮崎駿が引退撤回、新作完成前に解決すべきアニメ業界の問題とは

2017年5月29日 20:12

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■宮崎駿氏が引退を撤回
 2017年5月に、アニメーション監督で知られる宮崎駿氏が引退を撤回したニュースが流れた。彼は『風立ちぬ』を最後として長編映画の制作から引退を表明していたが、再度自分の人生を掛けて作品を作りたいとのことだ。しかし、一度引退を表明していた宮崎駿氏には大きな問題が待っている。

■作品完成の前にスタッフ招集が課題
 宮崎駿氏は2013年に引退を発表していたが、2017年5月にその発言を撤回。スタジオジブリのホームページでも「昔からの大切な仲間を何人も亡くし、自分自身の終焉に関してより深く考える日々が続きました」として、最後にもう1本、長編作品を作りたいという思いに至ったようだ。そして、「年齢的には、今度こそ、本当に最後の監督作品になるでしょう。この映画制作完遂のために、若い力を貸してください」として新しいスタッフを募集している。

 しかし、宮崎駿氏が新作を作る上で最大の問題がスタッフの招集である。前回の引退に際しては、約200人近くのスタッフを失っている。さらに、スタジオジブリで働いていた人材の多くは、現在は『思い出のマーニー』を作った米林宏昌監督のスタジオ・ポノックに移っている。

 元々、宮崎駿氏はアニメーターにも高いクオリティを要求し、完成がずれ込むことはザラであった。そうした制作を支えたアニメーターがいない現在、新作を作り上げることが難しいことが予想されている。

■日本のアニメーターが冷遇されている問題
 さらに、宮崎駿氏がアニメーターに提示した労働条件にも厳しい声が出ている。契約期間は2017年10月からの3年間で、新人育成を前提として給与額は月額20万円以上。賞与は年2回あるが、契約期間の延長や期間の定めの無い雇用への変更は基本的に行わないとしている。

 月に20万円以上もらえると考えれば割がいいと考える人もいるかもしれないが、保険料や生活費を差し引けばほとんど手元に残らない金額であるのは事実である。

 アニメーターの給料問題は昨今の話題として取り沙汰されることが多く、ひどい場合は年収100万円に満たない人もいると言われている。アニメーターは基本的にはフリーランスで行う人が多く、交渉が上手ければある程度の額を見込めるかもしれないが、基本的にはすぐに現場に出されるため、そうしたノウハウが育たないままにアニメーターとなり、ほとんど使い捨てのようになってしまう現状がある。

 また、現代のアニメ制作では広告代理店が間に入って元受けとなるため、マージンが抜かれている現状がある。こうした事態がアニメーターの労働環境を悪化させると共に、使い捨てのような状況を生み出しているのだ。

■海外からも待遇に批判続出
 宮崎駿氏が提示した労働条件には、海外からも批判が出ているようだ。世界的アニメ監督の元で働けるのはうれしいが、20万円であればロクに生活できないという指摘がされている。一部報道によると、アメリカでアニメーターとして働けば約4倍の給料がもらえるという声もあり、日本の労働環境がいかに悪化しているのか垣間見える事態となりつつある。

 専門職の場合、「住み込み」という働き方があった。今では漁村などがこの住み込みの制度を見直し、若手の生活を親方が保証しながら技術の定着を狙う試みが図られている。また、映画『WOOD JOB!』でも林業の若手育成のために行政が介入し、林業に従事する家族の元でひとつ屋根の下で暮らす様子が描かれている。苦境に立たされる若手アニメーターを本気で育てないのならば、アニメ業界でもこれぐらいの制度を考える必要があるかもしれない。(記事:藤田竜一・記事一覧を見る

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