知らないと割りを食う? 電力自由化のメリットとデメリット

2016年6月23日 21:33

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記事提供元:biblion

 【連載第5回】2016年4月からスタートした「電力自由化」について、図解も交えて分かりやすく解説する本連載。今回は、個人も企業も知っておくべき「電力自由化のメリットとデメリット」について『かんたん解説!! 1時間でわかる電力自由化入門』の著者、江田健二さんに話していただきました。

知らないと割りを食う? 電力自由化のメリットとデメリット

記事のポイント

 本連載は書籍『かんたん解説!!1時間でわかる電力自由化 入門』の著者である江田健二さんのお話をもとにお届けしています。

●電力自由化のメリット

 ① 選択の自由が生まれる
 ② ビジネスチャンスが広がる

●電力自由化のデメリット

 ① 電力会社が投資を控える
 ② 新規参入しても倒産する会社も?
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自由化がもたらすメリット「選択の自由」

 今回は電力自由化のメリットとデメリットについて説明します。まずはメリットの方からお話ししましょう。電力自由化によってもたらされるメリットの一つは、消費者側に「選択の自由」が生まれるということです。

 今まで電力会社はお客さんがどういう生活スタイルや嗜好を持っていて、どんな風に電気を使いたいかということをあまり考える必要がありませんでした。電力会社にとって、都合のいいプランを並べてその中から選んでもらうだけでよかったのです。しかし今後は、既存の電力会社も新しく参入する電力会社も、かなり顧客目線に立ったサービスを提供していく必要が出てきます。

 今、消費者はそうした顧客目線に立ったサービスの中から、自分の生活スタイルにあったものを選べるようになっています。長期契約割引や、家族割といったプランもありますし、地域に根ざしたいろいろな電力会社もできていますので、自分の住む地域に貢献できるようなプランを選ぶこともできます。地元を応援したい人は、「じゃあ、地元の電力会社から電気を買おうかな」という選択ができるのです。
電力自由化のメリット①「選択の自由」が生まれる

電力自由化のメリット①「選択の自由」が生まれる

 また、少々電気料金が高くても太陽光発電など再生可能エネルギーで発電した電気を使いたいという人は、そうした電気を売っている会社と契約できます。逆に、1円でも安い方がいいという人は、電源構成などを気にせずに値段で電気を選ぶことができます。電力会社によって、電源構成が異なりますので、二酸化炭素の排出量なども異なります。海外では、電源構成も選択する際の一つの指標となっています。

 このように、消費者自身が自分の嗜好や生活スタイルだけでなく、価値観や信条など、様々な基準で会社やプランを選ぶことができる、つまり消費者が積極的、主体的な意思表示ができる時代になったというわけです。

自由化によるビジネスチャンスの広がり

 もうひとつ、ビジネス面におけるメリットがあります。それは、今回の電力自由化は企業にとって非常に大きなビジネスチャンスになるということです。全体で7.5兆~8兆円という大きなマーケットに、今までは参入できなかった企業も入ってきていいですよ、ということなので、これは新しいビジネスチャンスを狙っている企業にとっては非常に嬉しいことです。それは必ずしも小売電気事業者として直接、電力事業に参入するということだけではなく、自社の強みを生かして、様々な分野の企業がいろいろな形でこの市場に参入できる可能性が広がっているということです。

 すでに、ポイントサービスを行っている会社が東京電力や関西電力などと提携したり、家電メーカーや大手スーパーなどが電力事業関連のサービスを提供したりと、様々な業界で新しい動きが出てきています。企業はこれまで培ってきた顧客との接点を活かし、従来の自社サービスに新たに電気販売サービスを組み入れることで、売り上げ拡大の大きなチャンスがあるのです。

 また、今回の電力自由化はIT業界にとっても非常に大きな特需になると考えられています。今後、電力事業に連動した情報関連サービスがどんどん開発され、それに合わせて様々な分野でのIT化が求められていくでしょう。
 電力事業のIT化、デジタル化において最も重要なキーワードになってくるのが「スマートメーター」(これまでの電気使用量メーターに代わる新しい電力量計)です。これまで電力会社による検針は月1回だったのが、今後このスマートメーターの普及によって、毎日、約30分に1回のペースでデータを集めることが可能になり、それを様々な企業が分析、活用するという時代になるのです。

 電力会社も他分野からの新規参入企業も、みなITを駆使して顧客のニーズを調べ、新しいサービスを提供するといったことを、否が応にもしていかなければならなくなるので、IT業界には様々なニーズが発生してくるでしょう。特に多くの顧客とつながりがある会社や、顧客データの分析を得意としている会社には、大きなビジネスチャンスが広がっていくはずです。
電力自由化のメリット②「ビジネスチャンス」の広がり

電力自由化のメリット②「ビジネスチャンス」の広がり

 一方、ガス会社や不動産・住宅関連の企業など、すでに多くの顧客と接点を持っていて、しかも電力事業と親和性の高い企業は、電力会社の代理店のような形で市場に参入することが可能になりました。「うちの商品に追加で、セットで電気もどうですか」という提案ができるからです。ですから、中小企業でも特定の電力会社の代理店になることによってこの新しい電力事業市場に参入できる可能性が十分あります。

 このように、電力自由化によって新しいサービスや技術革新、異業種間の連携や提携など新しい動きが生まれて、日本経済全体、産業界全体が活性化することが期待されています。

電力会社が投資を控えるリスクもあり

 次に、電力自由化におけるデメリットについて考えてみましょう。
 自由化によって生じると考えられるデメリットの一つは、電力会社がこれまでのような発電所などへの長期的な投資を控えるようになるのではないかということです。
 これはやや大きな視点なのですが、電力自由化によって電力会社同士の競争が激しくなると、電力会社はこれまで以上に利益を上げ続けることを重視せざるをえなくなります。その結果、電力会社はどうしても短期的な利益を追求することになり、長期的な投資、大規模な投資を控える可能性があるのです。いわゆる大規模な発電所を造るというのは、ある意味で非常に大きなリスクをとる必要があるからです。
電力自由化のデメリットは電力会社が「投資を控える」こと

電力自由化のデメリットは電力会社が「投資を控える」こと

 このように電力会社が投資を控えると、日本全体の電力のインフラ自体が脆弱になってしまう危険性が出てきますし、投資対効果の低い地方、特に過疎地や離島などに投資しようという気運が低下し、そうした地域の生活環境の維持・向上がなおざりになってしまう可能性があります。

 そう考えると、今回の電力自由化は都市部の人は大歓迎かもしれませんが、地方の一部の人にとっては「前の方がよかったね」ということにもなりかねません。まさに鉄道などの交通機関の問題と一緒で、都市部はどんどんサービスがよくなり便利になっていくけれど、過疎地はどんどん生活が不便になっていくということも十分考えられます。

 こうしたことは、既に電力自由化が進んでいる海外でも起こっており、今後は電力会社各社が利益の追求だけでなく、社会全体、特に地方の人々に対するサービス向上や、その先にある便利で豊かな生活を、企業の社会的責任として真剣に考えていく必要があります

自由化により、倒産する会社も現れる?

 電力自由化により生じるデメリットがもう一つあります。それは、新規参入会社の乱立と同時に、倒産する電力会社が数多く出てくるという可能性です。
 これは海外で実際に起こっているのですが、例えば、ある企業が「わが社は、いままでの半額で電気を提供します」と言って鳴り物入りで新規参入してきて、一気に顧客を獲得します。ところが実際には顧客対応などの作業が追いつかなかったり、資金繰りが追いつかなかったりして、結局「すみません、今月で電気事業から撤退します」となるのです。

 そのようなことが起こっても、顧客は電気を使わないわけにはいかないので、次の電力会社を探し契約をするまでの一定期間、地域の公共団体などが発電している割高な電力を利用せざるを得なくなるといったことも考えられます。このように、せっかく得だと思って選んだ電力会社がある日突然潰れてしまって、顧客が大迷惑するといった事態が起こらないとも限りません。特に工場利用の電気をそのような電力会社と契約してしまった企業は、大きな損害を被ります。

 今後、電力会社によってはかなり強引に営業をかけてくることもあるかもしれません。そういった会社は破綻してしまう可能性が高いと考えられますし、それらが続々と潰れてしまうと、社会的にも大きな影響が出てきます。既存の大手電力会社が倒産することは考えにくいですが、新規参入して勢いよく入ってきたものの、結局失速してしまうという電力会社が数多く出てくる可能性があります。
 したがって、今後は消費者も自分でよりよい電力会社を選択する目を養っていかないと、電気料金で割を食うだけでなく、生活に大きなダメージを受けるリスクがあるのです。

 (次回に続く)

この連載の過去記事

この連載の過去記事この連載の前回までの記事はこちらでお読みいただけます。

この記事の話し手:江田健二さん

この記事の話し手:江田健二さんRAUL株式会社 代表取締役。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社の顧客管理プロジェクト/会計システムリニューアルプロジェクト、大手化学メーカーの業績管理プロジェクト/物流システム改革プロジェクト等に参画。同社で経験したITコンサルティング、エネルギー業界の知識を活かし、2005年にRAUL株式会社を設立。「環境・エネルギー×デジタルテクノロジー」をキーワードに、環境・エネルギービジネスの推進や企業のCSR活動を支援している。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人エコマート運営委員も務める。 元のページを表示 ≫

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