超強磁場でも維持される、2次元超伝導状態を発見―東大・岩佐義宏氏ら

2015年12月15日 19:15

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MoS2薄膜をトランジスタのチャネルに用いた電気二重層トランジスタ(EDLT)のデバイス構造。今回の研究で用いたMoS2薄膜の厚さは約20ナノメートル(nm)。正の電圧を加えることでMoS2の表面(原子層1層分の厚さ)にのみ電子が蓄積する。(東京大学などの発表資料より)

MoS2薄膜をトランジスタのチャネルに用いた電気二重層トランジスタ(EDLT)のデバイス構造。今回の研究で用いたMoS2薄膜の厚さは約20ナノメートル(nm)。正の電圧を加えることでMoS2の表面(原子層1層分の厚さ)にのみ電子が蓄積する。(東京大学などの発表資料より)[写真拡大]

 東京大学の岩佐義宏教授らの研究グループは、極めて強い磁場中で維持される2次元超伝導体を発見した。この成果は、磁場中の新たな超伝導現象の探索や、磁場に強い超伝導材料開発への新機軸となることが期待されるという。

 多くの超伝導体では、スピンが逆方向に向いた2つの電子が対をなす状態が形成されるため、ある大きさ以上の磁場を加えることによってスピンの同方向へ整列させようとする力が働くと、超伝導が不安定になる。一方で、リニアモーターカーなどは強磁場下で超伝導を利用しているため、この磁場の上限を向上させた強磁場下で安定な超伝導体をデザインし、作製することが求められている。

 今回の研究では、単結晶を用いて、電界効果トランジスタの一種であるEDLT構造を作製し、この極薄の2次元超伝導体の磁場への耐久性を調べるために、約55テスラという極めて強い磁場中での超伝導転移現象を電気抵抗測定により調べた。その結果、極低温領域の1.5ケルビンで、原子層に平行方向の臨界磁場 (超伝導が維持できる磁場の最大値)は52テスラまで上昇することを発見した。これは従来型の超伝導体を仮定した場合の理論的予測値の4倍以上の大きさになる。

 そして、電子状態の理論計算と臨界磁場の理論的導出を行った結果、この超伝導体では、MoS2単層結晶構造の特殊性である面内の反転対称性の破れと相対論的効果によって局所的な内部磁場が発生し、超伝導電子対のスピンが面直方向に強く固定されていることを突き止めた。これが原因となって外部磁場に対して極めて強いことがわかった。

 これは、世界的に前例のない特殊な超伝導状態がMoS2薄膜で実現していることを示しているという。

 研究グループは、今回の成果が、対称性が破れた2次元超伝導という新たな学術分野を切り開く礎になるとしている。また、強磁場に対して極めて安定的な超伝導材料を開発する指針となることも期待される。

 なお、この内容は「Nature Physics」に掲載された。論文タイトルは、「Superconductivity protected by spin-valley locking in ion-gated MoS2」。

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