ミツバチのDNAから捕食性ダニの脅威を克服した進化を明らかに

2015年8月21日 23:33

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OIST観察用蜂の巣にとまるミツバチ(写真提供:OIST)

OIST観察用蜂の巣にとまるミツバチ(写真提供:OIST)[写真拡大]

  • 研究者たちは1977年と2010年にニューヨーク・イサカの同じ森林から野生のミツバチを採集し、それによってこの間にゲノム全体で生じた遺伝的変化の観察が実現した。赤い矢印は、木の上に存在するミツバチの巣。(写真提供:OIST)
  • 円内の博物館所蔵のミツバチ標本(青破線)と現世代のミツバチ(赤破線)を結ぶ灰色の線は、両者の遺伝的関係が強いことを示している。さらに、アメリカ国内の他地域のミツバチ(黒破線)から延びるオレンジ色の線は、博物館に所蔵された当時の個体群(青破線)よりも、現世代の個体群に近いことを示している。このようなパターンから、現代のミツバチ個体群は、当時の同地域のミツバチに、アメリカ国内の他地域の移入ミツバチ個体群が加わってできたことが確認された。(写真提供:OIST)

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)のミケェエブ准教授らによる国際的な共同研究グループは、ミツバチの大量死を引き起こす捕食性のダニが大量発生しても特定の地域でミツバチが生存できる要因となった遺伝的な変化を明らかにした。

 今回の研究では、1990年代半ばにVarroa destructorと呼ばれる捕食性のダニが大量発生していたニューヨーク・イサカの周辺で、野生のミツバチ群を発見した。ミツバチは、ダニが大量発生したにも関わらず、以前と同じように生存していた。

 この要因を明らかにするため、研究グループは、1977年に採集したミツバチ標本のDNAと2010年に同じ森林で採集したミツバチのDNAとを比較し、ミツバチの遺伝的な変化を調査した。

 その結果、生き残ったミツバチ個体群では、不快や危険なものを避ける忌避避行動の学習を制御するドーパミン受容体に関わる遺伝子で変化がみられた。先行研究では、この受容体が、ダニを噛み砕いて体から取り除くためのグルーミング行動に関わっていることが示唆されている。

 また、成長に関わる遺伝子にも多くの変化が生じていた。今回のダニは、ミツバチの幼虫期間に繁殖してその幼虫を捕食するため、ミツバチ側はこれを避けるために進化したと考えられるという。身体的にも変化があり、現在のミツバチは当時の個体よりも小型で、翅の形が変化していた。

 母親からのみ伝えられるミトコンドリアのDNAも大きく変化しており、古い世代の女王バチの多くが生き残れずに個体群が大きく減少したことを示していた。一方、生き残った個体群の細胞核内に存在するゲノムでは、高い遺伝的多様性が維持されていたという。高い遺伝的多様性は環境適応に成功する可能性を高める。

 研究メンバーは、「ミツバチたちは一度打撃を受けましたが、そこから回復したのです。ミツバチ個体群は、捕食性のダニの脅威に対する遺伝的抵抗性を獲得したのだと思われます」「この発見により、さらに強い抵抗力をもつミツバチの育種に用いることができそうな候補遺伝子を特定することができました」「この事例は自国のミツバチの遺伝的多様性を高い状態に保つことの重要性を教えてくれます。今後発生する危機を克服するのに役立つでしょう」とコメントしている。

 なお、この内容は「Nature Communications」に掲載された。

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