沖縄科技大、行動の柔軟性を司る脳の神経細胞を明らかに

2015年6月30日 23:00

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左の画像は、ラットの脳内で線条体と呼ばれる高度な意思決定を司る部位にある全てのニューロン(黒色の点)。右の画像は、コリン作動性介在ニューロンのみ。コリン作動性介在ニューロンは線条体のニューロンのうちわずか1~2%しか存在しない神経細胞で、行動の柔軟性に関わっている。(大きな白い点は神経線維の束)(写真提供:OIST)

左の画像は、ラットの脳内で線条体と呼ばれる高度な意思決定を司る部位にある全てのニューロン(黒色の点)。右の画像は、コリン作動性介在ニューロンのみ。コリン作動性介在ニューロンは線条体のニューロンのうちわずか1~2%しか存在しない神経細胞で、行動の柔軟性に関わっている。(大きな白い点は神経線維の束)(写真提供:OIST)[写真拡大]

  • 今回の研究でラットに行わせた2つの課題の流れを示す図。AとBのどちらのテストでも、ラットは報酬として砂糖ペレットをもらうために、最初のルールでは右側のレバーを選ぶことを学習し、その後のルールの変更に伴い、左右どちらかに点灯する光を手がかりにレバーを選択することが求められた。 Aのテストでは、右側のレバーを選ぶ最初のルールの時に、光は呈示されない。ルール変更後、左右いずれかのレバーの上に光が無作為に点灯し、ラットはそのレバーを選ばなければならない。ラットは光という新しい情報を取り込む必要がある。 Bのテストでは、最初のルールで右側のレバーを選ぶ際に、無作為に光を点灯させた。この時、報酬と光は無関係であり、報酬が出てくるレバーの光が点滅する場合もあれば、そうでない場合もある。ルール変更後、この無関係であった光が示すレバーをラットは選択しなければならない。 コリン作動性介在ニューロンを損傷されたラットは、最初のルールは学習できたが、その後のルールの変更に対応できず、既に学習したルール、行動戦略に固執した。腹側線条体の同ニューロンを損傷されたラットは新しい情報を取り込む際に(テストA)、背内側線条体が損傷されたラットはこれまで無関係だった情報を取り込むときに(テストB)、このような固執性を示した。(写真提供:OIST)

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)の青木祥博士らによる研究グループは、既存ルールの変更に伴って戦略を変える能力、すなわち行動の柔軟性は、脳内にある特定の神経細胞によって制御されていることを明らかにした。

 コリン作動性介在ニューロンと呼ばれる神経細胞は、高度な意思決定を司る脳内部位である線条体にわずか1~2パーセントしか存在しない珍しい神経細胞で、行動戦略の転換にも関与すると考えられていた。

 今回の研究では、正常ラットとコリン作動性介在ニューロンを損傷させたラットに、右のレバーを押すと報酬として砂糖ペレットがもらえることを学習させ、次に左右どちらか光が点灯し、そのレバーを押すと砂糖ペレットがもらえるよう、報酬のルールを変更した。

 その結果、正常ラットは即座に光に反応を示したのに対し、コリン作動性介在ニューロンを損傷させたラットはこの新しい情報に注意を向けられず、最初に学習したルールに基づいた戦略を繰り返すことが分かった。

 別の実験条件でも、正常ラットがルールの変化に問題なく適応できたのに対し、コリン作動性介在ニューロンを損傷させたラットはうまく対応できず、少ない報酬しか得られない最初に覚えた戦略に固執した。また、最適な方法でより多くの報酬を得ようとする探索力の低下も見られた。

 こうした結果からコリン作動性介在ニューロンが行動戦略の転換に関与する神経細胞であることが実証された。

 青木氏は、「線条体内の領域に関係なく、コリン作動性介在ニューロンは共通の役割を果たしています。それは、経験則を抑制して、新しいルールを模索するよう促すというものです。この時、状況や刺激の種類に応じて、線条体内の異なる領域のコリン作動性介在ニューロンがその役割を担います」「コリン作動性介在ニューロンは年齢とともに衰退することから、年をとると頭が固くなるのはなぜかという疑問を解明するヒントが得られるかもしれません」とコメントしている。

 なお、この内容は「The Journal of Neuroscience」に掲載された。論文タイトルは、「Role of Striatal Cholinergic Interneurons in Set-Shifting in the Rat」。

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