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【インタビュー】アパレル企業のウェブ責任者が見る「2018年。3年後のウェブ戦略」―EC台頭でより強まるジュンの組織力【前編】
「ロペ ピクニック」や「ル ジュン」などのチェーン展開から、「ザ・プール青山」「メゾン ド リーファー」といった個性が光るオンリーワン店舗の開発、さらには飲食店やゴルフ場の運営まで――。「ライフスタイルおよびソーシャルスタイルのイノベーター」を標榜し、1958年創業の老舗企業でありながら、既存の枠にとらわれない事業を次々と創造しているジュン。そんなブランド育成のプロたちが考える“EC事業の育て方”とは?
ビッグデータの台頭やデバイスの進化により、アパレル業界でもオムニチャネル化が急速に進むいま。店舗とネットの同期を進めるとともに、独自の組織体制と専門性で、店舗ならでは、ネットならではのメリットを引き出しているのが同社の戦略だ。EC事業を統括する中嶋賢治氏に話を聞いた。
■EC事業によって「縦と横」の関係が明確に
―ジュンがウェブ事業に取り組まれているのはいつ頃からですか?
「A.P.C.」が国内販売をスタートした頃からですから、相当長いですね(A.P.C.フランスと1992年に合弁会社イーストバイウエストを設立。1994年春夏から、カタログ通信販売「V.P.C.」で同ブランドの販売を開始した)。通販の一環として手運用で始めたんですが、ヨーロッパのブランドをより広くオンラインで販売しようという佐々木(佐々木進社長)のアイディアでした。“EC”というものがまだ存在していなかった時期です。
店舗システムを取り入れたのもかなり早かったです。DCブランドブームとともに会社も急成長した時期ですので、数値をいち早く“見える化”する必要がありました。ただ、当時は大きな初期投資をしましたし、歴史も長い分、新しい形のeコマースにリプレイスしていく時間もかなり必要でした。
―現在のようなブランド複合型のモール「ジャドール ジュン オンライン(J'aDoRe JUN ONLINE)」を立ち上げたのはいつですか?
2013年10月です。ちなみに、「ザ・プール青山」は、海外にもお届けしたいという目的があるため単独サイトとしてお見せしています。ただシステム上は、他ブランドと同様、「J'aDoRe」の中に存在している形です。
―中嶋さんはもともとブランド事業部にいらっしゃったそうですが、いつ頃EC事業に携わったのですか?
「ジャドール ジュン オンライン」が立ち上がる1カ月前です。一番大変な時期ですね(笑)。それまではずっとブランド事業部にいましたし、特別ECに強いわけではありませんでした。それこそ短期間に様々な壁に当たりましたが、よかったのは、ブランド事業部にいながら、EC事業に関わっていることです。それぞれのポジションからお互いを見ることができましたし、両者をどう同期させていくかを常に考えることができたからです。どちらかに関わっていただけでは見えなかったこともあるだろうと思います。
突き詰めれば、ECもいわば1つの店舗です。お客様をどう呼び込み、どれだけ満足して帰っていただけるか。これは店舗もECも共通しています。ECだからといって特別な壁や意識を持たずに対応することが、いわば今のオムニチャネルの考えにも繋がっています。
―その点については多くのアパレル企業が悩まれているようですね。例えば、ECがどれだけ在庫を確保できるのかという点でも、ブランド事業部とEC事業部との間で意見が対立してしまったり。ジュンでは今、EC事業のあり方をどうとらえていますか?例えば、ECの売り上げについてはどういう見方をしていますか?
ECの売り上げについては、二元化して見ています。1つは、EC売り上げを含めてブランド全体として見る場合。もう1つは、ブランドを横断したEC全体として見る場合です。
私たちにはもともと、すべての課題に対して、ブランド軸(縦軸)で見ることと、ブランドをまたいで(横軸)見ること、この2つをうまく組み合わせることが重要だという考えがありました。ECができたことによって、この縦と横の関係が明確にでき上がったといえます。EC事業部は、各事業部のメンバーが集まってできているわけですが、EC事業における仕事の進め方やナレッジの共有がとても大切です。この横軸の関係をどううまく作り上げるかも仕事の1つですね。
現在EC事業部のメンバーは、月、火曜日はそれぞれが所属するブランド事業部のフロアで仕事をしています。先週の課題を今週どう解決するか、これはチャネル関係なく話し合い、ワークショップを開いたり、実務につなげます。水曜日以降はEC事業部のメンバーとして、ナレッジを共有したり、各サイトへの対策を協議します。1週間で見ると、半分はブランド事業部に、もう半分はEC事業部に関わっている状況です。
今後はEC事業部が独立する可能性もあるかもしれません。そうした場合、縦の関係が弱くならないための工夫が必要ですし、その逆も考えられます。縦と横のつながりを意識した組織のあり方を考える時期に来ているといえます。
―そういう組織のあり方は、個人に対する評価も明確になりますね。個人個人にとってもどれだけKPIを達成できたか見えやすい。
ジュンでは、ブランド軸での活動と併せ、ワークプラットフォームという活動があります。これは、MDや企画、製造、バイヤーなど、同じ職種の中で知恵を共有したり、ベストプラクティスを探っていくものです。最適な仕事のやり方やそのためのマニュアルはある程度固まってきています。私たちが今考えているのは、このプラットフォームの先にあるものです。
仕事をより効率化し、よりスピード感をもって進めるにはどうすればいいのか。店舗づくりやものづくりをする上で、作業効率が求められる業務もありますし、より深い思考が求められる業務もあります。ある程度両者を分けて考える必要があるでしょうし、作業量が多い場合には、横軸でつながり、サポートし合うことも求められるでしょう。そういう意味で、横軸の組織を再編する時期にも差しかかっています。
私たちEC事業部は、もともとブランドをまたがっているため、この横軸による捉え方を会社の中でも先駆けて行ってきました。
―組織や事業のあり方は今、どの企業にとっても重要な課題になっていますね。なかには、販売員さんにウェブの知識を持ってもらおうとしている企業もあります。例えばSNSの運用についても、本部管轄ではなく、アカウンターである販売員さんが“スーパーIT戦士”になれば、拡散力もより強まるという考えもあります。
ECでは、予約販売をされるお客様が非常に増えていますね。そして、予約販売によって得られる情報のとらえ方も大きく変わってきました。今はシーズンごとの動きがどんどん早くなっていますから、より先のものを確実に手に入れたいというお客様が多い。この動きは、実売前のテストマーケティングとしても生かされています。
さらに、これをブランド事業部にどう反映させ、どうアクションにつなげるか。この流れをうまくつなげていくことが求められています。これがうまくいけば、例えば在庫調整や、トレンドをおさえた期中の差し込みといった店舗運営もより精度を上げることが可能になるでしょう。
■“ファン獲得”が自社ECの役目
―EC事業側からブランド事業に対して、どうフィードバックできるかが重要ですね。予約販売が増えているというのは、ブランド力が強いジュンならではだと思います。
ところで先ほどもお話しされましたが、オムニチャネルに対するジュンの考え方や体制などについて教えてください。
店舗とECの会員連携はすでに実施しています。現在はPOSや基幹システムの乗せ換えに着手しているので、それが完了すれば、店舗、EC、ウェブのシステム面でのオムニチャネルが加速すると考えています。それまではゆっくりとではありますが、店舗、EC、ホームページの同期を行っています。3者が同じタイミングで同じ商品や情報を発信できる状態が第1段階。さらに、店舗の販促、ECの販促、ブランドや商品の背景を語るホームページ、それらを拡散するSNSまでも含めたオムニチャネル化を進めています。
―ECのおける卸販売についてはどうお考えですか?ゾゾタウンやアマゾンといった大規模なファッションモールでの販売と、自社ECはどう棲み分けていますか?
お客様の嗜好によって使い分けていただくのがいいと思っています。大型のファッションモールは、あらゆる商品やプライスレンジの中から、自分にあったものを検索して選ぶことができるので、利便性は非常に高いですよね。一方で、お客様としっかりとコミュニケーションをとりながらファンを作っていくのは、私たち自社ECの役目だと思っています。
最近では、特化型サイトも多く見られます。サイズや用途など、特定の要素にセグメントされているサイトですが、とても魅力的ですよね。スタイリストさんが自身のウェブサイトをEC化するケースも目立っていますが、もともとファンがついているので、スタイリストさんお墨付きものであれば、これは売れますよね。ユーザーに対して絞り込みをして接客していくサイトは、今後ますます増えると思っています。
多くの選択肢の中から選ぶのか、あるいは自分の嗜好に合わせてサイトを選ぶのか。この二極化も進みそうですね。
―自分のライフスタイルやこだわりのものに応じてサイトを選ぶことができるのであれば、その存在価値は非常に高いですよね。
ユーザーにとっては、ウェブ上の共通ツールが生まれてきたことも大きいですよね。SNSのアカウントでログインできたり、複数のサイトで同じポイントを貯めることができたり。これまで1ケ所でしか使えなかったツールが、複数のサイトで使えることも多い。共通のツールを利用すれば、小規模のサイトでも利便性が上がりますし、ユーザーに対するハードルも下がりますね。
※この記事はアパレルウェブより提供を受けて配信しています。
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