理研、哺乳類と爬虫類・鳥類は、異なるメカニズムで鼓膜を獲得したことを明らかに

2015年4月25日 10:09

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哺乳類(ヒト胎児)と爬虫類-鳥類(トカゲ)の中耳の構造を示す図。哺乳類はツチ骨(黄)、キヌタ骨(緑)、アブミ骨(青)の3つの中耳骨を有するが、爬虫類-鳥類にはアブミ骨に相当する骨要素(耳小柱)しか存在しない。哺乳類の他の2つの骨要素は、祖先動物において顎の関節を構成していた関節骨と方形骨から進化した。一方、爬虫類-鳥類では、顎の関節は祖先動物から大きく変化しておらず、関節骨(黄)と方形骨(緑)の間にある。(理化学研究所の発表資料より)

哺乳類(ヒト胎児)と爬虫類-鳥類(トカゲ)の中耳の構造を示す図。哺乳類はツチ骨(黄)、キヌタ骨(緑)、アブミ骨(青)の3つの中耳骨を有するが、爬虫類-鳥類にはアブミ骨に相当する骨要素(耳小柱)しか存在しない。哺乳類の他の2つの骨要素は、祖先動物において顎の関節を構成していた関節骨と方形骨から進化した。一方、爬虫類-鳥類では、顎の関節は祖先動物から大きく変化しておらず、関節骨(黄)と方形骨(緑)の間にある。(理化学研究所の発表資料より)[写真拡大]

  • 哺乳類(ヒト胎児)と爬虫類-鳥類(トカゲ)の正常型(左)と実験操作を施した(右)マウスとニワトリ。実験操作により胚発生時のエンドセリン1シグナル伝達を抑制したマウスとニワトリでは、ともに、本来は下顎の骨要素(青色)が占める位置に上顎の骨要素(緑色)が形成される。一方、この実験操作は鼓膜に対してはマウスとニワトリでは正反対の影響を及ぼし、マウスでは鼓膜がなくなり、ニワトリでは鼓膜が上下に重複した。(理化学研究所の発表資料より)
  • 今回研究に基づいた鼓膜と中耳の進化過程を示す図。哺乳類と爬虫類-鳥類の共通祖先である初期羊膜類には鼓膜は存在せず、エンドセリン1シグナル伝達の一部であるGsc遺伝子は下顎の形成に関わっていた。哺乳類では鼓膜に対する顎関節の相対的位置が背側(上側)に移動した結果、Gsc遺伝子が鼓膜形成能を獲得し、下顎の一部として鼓膜を獲得したが、爬虫類-鳥類系統では上顎の一部として鼓膜が獲得された。(理化学研究所の発表資料より)

 理化学研究所の倉谷滋主任研究員らの共同研究グループは、マウスとニワトリの胚発生で同じ遺伝子の働きを抑える実験を行い、進化の中で哺乳類系統と爬虫類-鳥類系統がそれぞれ独自の発生メカニズムによって鼓膜を獲得したことを明らかにした。

 陸上脊椎動物は、空気中の音の振動を鼓膜で受け取り、中耳骨を通して内耳の神経へ伝達する。哺乳類の中耳骨は3つあるが、爬虫類と鳥類の中耳骨は2つしかなく、なぜ、このように2つの進化パターンが起こったのか、何が進化の分かれ道になったのかは分かっていなかった。

 今回の研究では、マウスとニワトリに対して、Dlx5/Dlx6遺伝子を制御しているエンドセリン1シグナル伝達に操作を加えて、下顎の特徴を上顎に変化させる実験を行った。その結果、マウスでは鼓膜がなくなり、ニワトリでは鼓膜のサイズが大きくなるという正反対のことが起きることが分かった。この結果は、マウスでは下顎ができる領域で鼓膜が発生し、ニワトリでは上顎ができる領域で鼓膜が発生することを示している。

 さらに、Dlx5/Dlx6遺伝子によって制御されるGsc遺伝子の発現を観察したところ、マウスではGsc遺伝子が発現している腹側(下側)の領域に鼓膜が形成され、ニワトリではGsc遺伝子が発現していない背側(上側)の領域で鼓膜が形成されることが明らかになった。

 今後は、本研究成果をもとに、哺乳類が独自に獲得した聴覚や咀嚼(そしゃく)機能の進化についても、発生学的なアプローチからより詳細な研究が進んでいくと期待されている。

 なお、この内容は「Nature Communications」に掲載された。論文タイトルは、「Developmental genetic bases behind the independent origin of the tympanic membrane in mammals and diapsids」。

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