関連記事
奈良先端大、花を咲かせるホルモン「フロリゲン」の働きの可視化に成功
稲穂で花が作られる過程のフロリゲンの分布(左)と、フロリゲンによってOsMADS15遺伝子が活性化された様子(右)(奈良先端科学技術大学院大学の発表資料より)[写真拡大]
奈良先端科学技術大学院大学は9日、バイオサイエンス研究科植物分子遺伝学研究室の辻寛之助教らの研究グループが、花を咲かせるホルモン「フロリゲン」が、花芽を作るために茎の先端に移動して働く過程の可視化に成功したと発表した。今後、花の咲く時期を自在に操る技術につながる可能性があるという。
これまで、「フロリゲン」が花芽の形成を決定する強い効果を持つことは知られていたものの、フロリゲンがどこに分布し、どんな遺伝子を活性化させるか、ということはわかっていなかった。
今回、研究チームは、独自のフロリゲン可視化技術を駆使してフロリゲンが花芽に到達し分布を変える様子を始めて可視化することに成功した。さらに、ジーンタゲティングと呼ばれる手法を用いて、フロリゲンが働いたときに活性化する遺伝子を可視化できる植物を作成し観察した。その結果、フロリゲンが茎の先端で遺伝子を活性化しながら分布を変える様子を初めて捉えることに成功したという。
さらに、フロリゲンが茎の先端でどのように花を咲かせているのかを調べるために次世代シーケンサーと呼ばれる高速のゲノム解析機器を使って全遺伝子の活性化状態を計測した。
その結果、フロリゲンが遺伝子を破壊する効果を持つ「動く遺伝子」、トランスポゾンの働き(発現)を抑制することをつきとめた。
花は次世代に遺伝子を伝える生殖器官であるため、トランスポゾンによる遺伝子破壊などから守る必要があるが、フロリゲンはその役割も担っていることになるという。
この研究成果は、植物が花を作る仕組みの謎に迫る極めて重要な発見であり、今後、フロリゲンの分布や遺伝子の活性化を人工的に操作することで、花の咲く時期を自在に操る技術につながる可能性があるという。
また、作物の収穫時期や収穫回数の増加等への貢献や、花を咲かせないようにフロリゲンの効果を抑え続ければ、植物は茎と葉を出し続けてバイオマスが大きくなるため、バイオマス増大を視野に入れた植物改良への貢献も期待できるという。
この研究は、2月9日付けで米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)の電子版に掲載された。(記事:町田光・記事一覧を見る)
スポンサードリンク