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【コラム 山口利昭】市場の番人・公益の番人論2015-その2 ヤマト運輸のメール便廃止
【1月24日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
昨日の適格消費者団体に続き、本日は一般事業者自身の「公益の番人性」に関するお話です。本日の日経ニュースで報じられているとおり、ヤマト運輸さんが2015年3月限りでメール便を廃止することを決定したそうです。ご承知のとおりメール便では「信書」は配送できない(日本郵政の独占業務)のですが、2009年以来、法令を知らない委託者が8件も郵便法違反によって書類送検や警察からの事情聴取を受ける事態となりました。
おそらくメール便の使い勝手が増すにしたがって、利用者が法令違反行為に至るケースが増えているものと思います。ヤマト運輸さんとしては、これ以上、ステークホルダーの法令違反行為を助長させることはできないとして、今回の廃止に踏み切ったそうです(もちろん報道にあるとおり、事業戦略とつながる点もあるとは思いますが・・・)。
昨年、このブログでもご紹介したDeNA(ディーエヌエー)の南場智子さんの「不格好経営」に、とても印象深い出来事が掲載されています。モバゲーが急成長を遂げていた2007年、モバゲーを「出会い系グッズ」として活用する人たちが増えたそうです。社長である南場さんは、健全に遊ぶユーザーを守ることを第一に、自主規制機関を設置し、ローラー作戦で「出会い系ユーザー」をつぶす作業を行いました。「健全性の確保が経営の最優先課題。当然、利益よりも優先せよ」と指示を出された、とあります。
当時のDeNEといえばまさに急成長の最中であり、どんなことがあっても短期の利益を優先するのが当然・・・と思える時期ですが、「健全化に向けて努力をした事業者が報われる仕組みにするほうが、結果として業界全体の自浄能力が定着し、ユーザーを守ることになる」(同書124頁)との思いが強かったそうです。コンプライアンスを実現することで行政による規制強化を排除したわけで、まさに「闘うコンプライアンス」の一例かと。
私も過去に2度ほど、郵便法上の「信書性」について総務省と交渉をした経験があります。郵便法においては、郵便の事業は郵便法の定めるところにより郵便事業株式会社が行うものとされているところ(同法第2条)、郵便事業株式会社以外の者は、何人も、他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう)の送達を業としてはならず、運送業者はその運送方法によって他人の委託を受けて信書を送達してはならない、と規定されています(同法第4条2項、同3項)。さらに何人も、第2項の規定に違反して信書の送達を業とする者に信書の送達を委託し、又は3項に掲げる者に信書の送達を委託してはならない、と定められています(同4項)。このあたりの「信書性」判断のむずかしさは昨年12月の東洋経済さんの記事に詳しく説明がされています。
はたして「何が信書に該当するのか?」「配送業務のどこまでが信書の送達にあたるのか?」「どのような送達方法によれば信書性が解除されるのか?」という点はグレーゾーンが多く、総務省や地域の総合通信局によっても見解が異なる場合があります(担当者が変われば解釈も変わる可能性があります)。郵便法に詳しくない人たちからすれば、知らない間に犯罪に巻き込まれるリスクがあり、いわば現在のヤマト運輸さんは犯罪行為を助長する役割を担っている、ということにもなりかねません。
ステークホルダーの利益を最優先に考える企業こそ持続的な成長が図られるべきとするならば、こういった利用者を犯罪に巻き込むおそれのある事業を「手直し」することこそ、「公益の番人」として果たすべき役割だと思います。
DeNAさんやヤマト運輸さんのように、今後は(自社の事業戦略を推進することを目的として)企業自身が「市場の番人」「公益の番人」の役割を務め、短期的な利益よりもステークホルダーの利益保護を優先する事業姿勢を打ち出す企業が増えてくるのではないでしょうか(上場会社の場合には、現在策定中のコーポレートガバナンス・コードの第3章でも、このあたりが明確にされているものと思います)。【了】
山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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